第88話 思いやり支え合う旅の仲間
「エルル様」
「ええ。待っていてくれたのね」
樹牢を出ると、ルフが居た。もう夜遅い。エルフ達は皆寝静まっている。
「大丈夫でしたか」
「ええ。もう何ともないわ。あなたのお陰よ」
「そんな……。私は何もしていません」
ルフには負い目があるのだろう。私の護衛を途中で投げ出したという。だからこの島で、甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれるのだ。
「……ゲン様は」
「出さないわ。許さないし。けれど、彼を生かすのは私の我儘でしょう? だから、これから冒険者として依頼を受けたりして、その報酬の一部を大森殿に納付することにしたの。大長老にも伝えてきたわ」
「エルル様」
彼の命を、私が握ること。
私が自由になる上で、精神的に重要だと考えた。
彼は私に生かされている。
『そういう遊び』を、これからするのだ。
「ねえルフ。あなた言っていたわよね。仲間を紹介したいって。それ、あなたのパーティメンバーのことでしょう? 街に居るのかしら」
「……!」
進むべき方向は明確になった。後は、具体的な道だ。
考えるべきことは沢山あるけれど、やるべきことはシンプルだ。
「……ええ。紹介しましょう。ニンゲンの男性やドワーフも居ますが、よろしいですね?」
「勿論。あなたの仲間だもの。きっと私も、仲良くできるわ」
「では。恐らく今日も酒場で飲み明かしていると思います。エルル様、お酒は」
「飲んだこと無いわ。オルスでは20歳なのよ。やめておいた方が良いかしら」
「そこは、自己判断ですよ」
「ふふっ。そうね」
世界を見て回る。それが終われば宇宙へ。
300年という期限はあるけれど、焦って急ぐ必要は無い。
◆◆◆
ルフの仲間達は気さくで話しやすく、楽しい人達だった。ニンゲンの男性、ドワーフの男性、ニンゲンの女性の3人だった。
私はお酒を飲まなかった。自分の身体について、まだ分からないことが多いのだ。変な刺激はしない方が良いと判断した。
「……ルフよ。お前、姫さんと行きてえんだろ」
「!」
ニンゲンの男性、赤い髪のヒートが切り出した。出会って2軒目の酒場で。
「元々このパーティはヒューイから始まった。お前もヒューイに誘われたクチだろ。……お前だけ抜くと後味悪いから解散しようって話てたんだがよ。この姫さん見たら考え変わったぜ」
「え……」
ヒューイがパーティリーダーだったらしい。半年前に、魔界で死亡した。その魔界での依頼はなんとか終わらせたみたいだけど、療養と供養の為に、しばらくパーティはこの島に留まっていたのだそうだ。
何故、その魔界の依頼にルフは同行せず、私の所に来ていたのか。
「俺達はまた、魔界を目指すぜ。良いだろ? ルフ」
「……皆」
ルフは、魔界入りの資格を持っていないのだ。魔法を使えるエルフより。彼らニンゲンの方が強いと判断されている。
「なあ姫さん。ルフを頼むよ。こいつ、普段は気の強え女なんだがな。しかし脆い。上手く支えてやってくれ。姫さんも冒険者になるんだろ? 組んでやってくれよ。ギルドのことも教われるし、双方に良いだろ」
「…………ルフは、どうなの?」
「私は……」
分かった。こういう話は、酒の席でしかできないのだ。
機を窺っていたのだ。皆。
「……エルル様は、これからどうするおつもりですか?」
「私はね。まずニンゲン界を巡ろうと思うの。そこで旅しながら、魔界入りの資格を目指すつもり。それで、ニンゲン界を踏破したら魔界よ。本格的にデーモン探しを始めるわ」
「…………それでは」
「ええ。一緒に頑張らない? 魔界入り」
「……!」
彼らは遠慮せずに魔界を冒険したい。ルフは気負わずに魔界を目指したい。
これが最善。
「それに、私は生理があって、ひと月に一度、動けない日があるの。あなたが側に居てくれれば、安心して旅を続けられると思うのだけど。頼って良いかしら」
「…………はいっ」
確かに、ヒューイを喪って今のルフは不安定な気がする。私が、ゲンのことを吹っ切ったからそう見えるのだろうか。
支え合えば良い。私が不安定な時、彼女が側に居てくれて嬉しかったから。




