表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第4章:遥かなる冒険の旅へ
84/300

第84話 何よりも罪なき尊い命

「しかし。実力的に魔界冒険の基準を満たしているとは言え、ゲン様にとっても初めての魔界入り。さらには怒れるエルフの戦士達が全力で追ってきます。途中、魔界の亜人達や大型の魔物による横槍も入りつつ。……多数の犠牲を払い、遂に彼を捕らえました」

「……ええ」


 結果。

 エルフの勝利。ゲンは樹牢に囚われることとなった。


 しかし。


「彼の処遇は極刑。すぐにでも斬首すべきとの声が多数挙がりました。が、大長老様がこれを否定しました」

「どうして?」

「…………」


 ルフが、そこで口を閉じた。私と目を合わせた。

 私を見たのだ。微笑んで。


「ルフ」

「……エルル様」

「ねえどうして……。私を『歓迎』したの?」

「エルル様」


 動悸が速くなる。

 汗が出てくる。


 息が苦しくなる。

 横隔膜が、せりあがる。


「私を受け入れたの? 私は……。エルフ史上最悪の大罪人の、娘なのよ?」


 もう、ルフの表情で。察している。けれど。

 どうしても言葉にして、確認しなければならないと。

 強く思った。私の『半分』が、そう強く訴えていた。


「皆……大勢死んだのよね? ルフ。あなたのお父様とお兄様も。……どうして、私に……。そんな。()()()()を、私に向けられるの? ねえ……っ」


 震えた手の甲に雫の感覚。私の涙だ。零れ落ちるほど、いつの間にか。


「エルル様」

「……どうして……」

「……やはりエルフとニンゲンでは、少しだけ、考え方が違うのかもしれません」

「え……」


 その手を、握られた。重ねられた。


「大長老様はこう考えました。子供はどう思うかと」

「!」

「どんなに悪でも、父親だ。どんなに悪でも、子から父親を奪うことは良くない。子育てに参加はさせないが。子がいずれ、成長して全てを知りたいと願った時。その時に、選ばせれば良い。……この男の処遇は、産まれてくる子に任せることとする」

「…………」


 両手で。

 握られた。強く。


「私はこう考えました」

「え……」

「どんな気持ちだろう。何を思うだろう。産まれてくる子は。最後の姫という重荷を背負って。他人種の血が混ざった境遇で産まれて。父親が同族の仇敵で。……全てを知った時、『その子』は大丈夫だろうかと」

「…………」


 ルフのベッドに、ふたりで腰掛けている。隣り合わせだ。私の右脚と彼女の左脚が触れ合う。


「これは私達の総意になりました。受け入れてあげようと。どんな性格でも。どんな選択をしても。仲間として。同族として。姫として。……支えて、差し上げようと」

「…………!」


 言葉が出ない。言葉にならない。

 前を、彼女を見れない。


 尊すぎて。


「何故なら子は、産まれる親を選べません。どんなに悪人の子に産まれても、子に罪はありませんから」

「……ぅっ!」


 『これ』を。

 心の底から本気で思うのだ。彼女達エルフは。

 だから騙されるのだ。だけど。


「もう、途絶えていても何も不思議でなかったのに。……血が混ざったことは些末事なのです。あなたは、()()()()()()()()()。エルル様。……姫様。あなたは私達にとって何より尊い命なのです。エルフの象徴として。種族結託と繁栄の旗印なのです。どうか、ご自身を卑下などなさらないでくださいね」


 私はもう、彼女達を一生、裏切ることはない。騙すことは無い。

 この暖かい期待と敬意に見合う、『エルフの姫』に成らなければならないと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ