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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第4章:遥かなる冒険の旅へ
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第79話 悪意で侵蝕する外道

 人は、騙される。基本的に人とは、真面目で素直なのだ。

 その良心に付け込み、私欲を満たす外道が居る。

 それを詐欺師と言う。


「もっと近くまで来てくれよ。顔をよく見せてくれ」


 ルフに異常は見られない。きっと、彼からこのプレッシャーを感じているのは私だけだ。

 私の、()()()()()()()が警鐘を鳴らしているのだと分かる。

 私にも外道の血が流れているからだ。


「……ああ、綺麗だ。俺は若い頃のエルフィナを知らねえけど。きっとこんな感じだったんだろうな。俺の好きな顔だ」

「…………!」


 気持ちが、悪い。

 髪が分からない。目が分からない。鼻が分からない。

 『舌』。

 私が彼に抱いた第一印象はこれだった。頭から足まで、舐め回されているかのように気持ち悪い。


 無貌の怪物。


「よく、会いに来てくれたな。エルフィナに育てられたんだろ?」

「…………」


 彼は、母が現代フェミニストの頂点だと知っている。私を産んだ経緯を含めると、私もフェミニストに育っており、冒険者と父親を憎んでいる筈だ、と。

 そう思うだろう、と思う。


「私は母の思い通りには育たなかったわ。だからここに来たのよ。私のルーツを確かめるために。……もう死んでいるかと思っていたけれど。でもやっぱり、この島に居たのね」

「そうか。嬉しいなあ。孝行娘だ。報われた気分だ」


 ああそうか。

 私が母の思い通りに育たなかったのは、半分が『ニンゲン』で、彼のように性格が悪かったからだ。


「…………亜人は、根が素直で真面目で。……『騙しやすい』のね」

「ああ、そうだ。ここまで旅してきたならもう分かるよな。だから、あの子達はフェミニストになる。簡単に歪む。歪んだことを自覚せずに、信じるものを信じる」


 隣でルフが、首を傾げた。

 私と彼の間には既に、シンパシーが発生していた。多くを語らずとも通じ合っていた。


 悍ましいほどに。


「……私が生きているから、あなたは殺されないのね」

「ああそうだ。やっぱり俺とエルフィナの子だ。賢いな。なら俺の実験も成功かな」

「…………?」


 当初私は。

 無理矢理、母が襲われたからと。

 彼の方が、母を好きなのだと思っていた。


 その言葉に、考えを巡らせて。


「……!」


 至る。

 笑っている。ようやく彼の表情が記憶できるようになった。


「……『ニンゲンの賢者』を、人為的に『造り』たかったの……!?」

「…………」


 笑っている。

 悪意が、流れ込んでくる。魔力ではない。この男に欠片も魔力は無い。

 彼の悪意が錯覚となって、彼の先から地面を伝って。樹牢をどろりと抜けて。私の足元から伸びて、身体を侵蝕してくる。


「…………っ!!」


 堪えきれなかった。


「あなたのせいで! 私は毎月生理で苦しんでいるのよ! あなたのせいで! 母を失望させた! 父親があなたでさえなければ! 私は母と森を信じて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ! あなたがっ! …………うぅっ」


 叫んだが最後。

 がくりと。

 膝を付いた。何故。私は彼に何もされていないのに。彼は牢の中で座ったまま一歩も動いていないのに。


 何故私が倒れているの。彼の前で、立っていられない。


「エルル様!」


 ルフが肩を支えてくれた。そのまま担がれて、彼に背を向けるように反転。


「……面会時間は『1日5分』です。それ以上は面会者の精神衛生に関わります。今日はこれで失礼します。ゲン様」

「……また来てくれよ。俺はここから()()()()。待ってるよ。俺の愛する娘エルル」


 そこからの記憶があやふやで。

 どうやって戻ったか覚えていない。

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