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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第4章:遥かなる冒険の旅へ
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第78話 賢者を籠絡した詐欺師との対面

 その後。


「シャラーラに会ったのか」

「ええ。依頼されたわ。だから私は、冒険者になるの」

「……そうか。わしの祖父が、直接の友人じゃったらしい。活発で好奇心に忠実な研究者じゃったらしいが、わしが知る限りは少なくとも2000年あの岬から動かん『化石魔人』じゃ。お前に何かを見出したのなら、世界はまた動くのかもしれんのう」


 大長老との食事会を終えて、ルフの案内でさらに森の奥へやってきた。


「――ひとつ、忠告しておくぞ。エルルよ。あの男の誘いに乗るな。本来なら耳も貸すなと言いたいがな……。アレは、本物の詐欺師じゃ。これまで何人もの世話係のエルフが言葉のみで奴に懐柔された。一切耳を貸すなと強く命令していたのに、じゃ」

「…………ええ。肝に銘じるわ」


 旅の疲れを取る前に。今。私は『彼』に会うべきなのだ。






◆◆◆






樹牢(じゅろう)

「はい。球状にくり抜いたような空間を作って成長する特殊な樹があります。成長する前に罪人をそこへ囚えると、やがて樹が成長し、誰も逃げ出せない天然の牢屋が完成します」


 樹の幹が、ぐるぐるに絡み付いているようだった。確かに球体になっている。その内側は、空間になっている。私の、空気の球で自身を包む魔法みたいだ。


 そんな樹牢の群生地があった。陽はあまり差さないらしい。まだ昼過ぎなのに、薄暗い。


「ゲン様。起きておられますか?」

「!」


 ルフが、敬語を使った。私への対応と同じように。

 罪人に対して。


 その樹牢だけ、絡み付く幹の本数が明らかに多かった。どこよりも大きく厳重で、魔法を使っても抜け出せないのではないかと思うほど。複雑で堅牢な構造になっていた。

 のにも関わらず。牢の中がしっかりと見えた。人が通れない隙間がいくつも空いているのだ。

 中心に、ひとり座っていた。男性が。


 ()()()()()()()が。


「………………起きてるよ。『今日』ってのはお前らが噂してたんじゃねえか」


 ぞわり。


「!?」


 寒気がした。薄暗いからだろうか。違う。

 彼の声だ。背中を、舐められるような不快な寒気。

 本能が告げている。彼は危険だと。

 厳重な牢に封じられて、魔法も使えないニンゲンだというのに。

 これ以上近付いてはならないと、私の身体が全身で訴え掛けている。


「エルル」

「っ!」


 さらに飛び退いた。名を。呼ばれた。死神の冷たい舌が私の首筋を舐め始めた気がした。


「俺の娘だ。なあ」

「…………っ!」


 声が出ない。ルフ。ルフは。

 彼に敬意を払っている。しかし、憎むように睨んでいる。二面性のある表情だ。

 複雑なのだ。彼女にとっても彼は。そして、この島にとって。ギルドにとって。エルフにとって。

 牢に収監しながら、敬意を払うエルフが居る。服装は。一般的なエルフの装束だ。しかもよく洗われていて綺麗だ。

 草の絨毯が敷かれている。他の牢は幹や地面が剥き出しだ。

 明らかに扱いが違う。


「…………あなたが私の、父親なのね」

「分かるんだろう? 魔力とやらで」

「…………ええ」


 慎重に言葉を選び、心の中で意を決してから、受け答えをする。彼は何だ。ニンゲンだ。ニンゲンなのに。

 このプレッシャーはなんなのだ。まだ私は、彼の外見を直視できていない。髪の色は。顔のパーツは。身長は。体格は。

 ……頭に入ってこない。見えているのに。まるで、顔が無い化物と対峙しているかのような錯覚がする。

 恐らく笑っている。私を見て。娘と、対面して。


「良かった。あのじいさん、俺には会わせない気かと心配してたんだ。俺はほら。ここから一歩も()()()()()()()()

「……!」


 彼は嘘吐きだ。

 出られない筈だ。それは私も分かる。なのに。

 私の『危険』を感知する器官が全て、彼を嘘吐きだと大声で断じていた。

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