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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第3章:信念を持つ強い者達
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第72話 差別せずに刃を振るう仕事

 私には得意魔法がある。人それぞれ、あると思う。ルヴィは水の魔法。ピュイアは飛翔の魔法。

 私は風と知覚の魔法だ。強引に空気の流れを作り出す。そして周囲の情報をいち早く得る。


 どいてな警官さん。()()の出番だ――


「そこっ!」

「うおっ!?」


 ナイフは常に携行している。主にサバイバル用だけど。ファルの農場で収穫の際に役立った、風でナイフを操る魔法。

 ひとつ、投げ付ける。当たらずに地面に刺さったけれど、もうひとりのエルフを牽制できた。

 私を捕らえに来た男性のエルフは、ふたり。


「隙ありっ!」

「無いわ」


 未だ空中を漂っていた無数のロープが、一斉に私に襲い掛かる。私はナイフを2本飛ばして、自分の周囲を出鱈目に斬り付ける。


「!」


 ロープは全て切り落とした。あの長さになってはもう私を捕らえられない。


 とっ。

 一旦地面に降りる。周囲のニンゲン達がざわめく。捕物だ。野次馬も多いだろう。


「わっ」


 石畳が移動する。地面からせり上がり、壁となって私の行く手を阻んだ。

 壁の魔法。私がまだ修得していない魔法。


「閉じ込めろ!」

「!」


 壁が四方から押し寄せる。私は再度空へ退避する。


「こんにちは」


 するともうひとりが待ち構えていた。なるほど。狩りだ。とても原始的な。


「おりゃあ!」

「!? ぐあっ!」


 ナイフを構えた瞬間、茶色い物体がさらなる高度から落ちてきて。エルフの男性の頭部に激突。

 そのまま地面へ叩き付けられた。


「ピュイア!?」

「友達は助けるよ! 早く逃げよう!」

「……っ!」


 ピュイアは相手を踏み台にしてまた飛び上がる。残る男性のエルフに威嚇をしながら。


 私は飛び降りて、叩き付けられた男性に伸し掛かった。


「ぐぉっ!」

「どうしてこんなことをしているの? 私と同じエルフなのに」

「ぐ……。へっ。甘っちょろいな『殺人エルフ』。これは仕事だ。公私混同はしねえよ」

「…………!」

「俺達は『死にたくない』。あんたと同じだ。分かるか?」

「…………ニンゲンに脅されているのね」

「どうしようもねえのさ。地の果てまで追い詰めるぜ。俺達は別にラス港の警察じゃねえ。国際犯罪者専門の『亜人狩り』だ。今のうちに殺しときな」

「…………っ!」


 地獄耳の魔法。今、ピュイアがもうひとりの亜人狩りに体当たりで吹き飛ばされた。その勢いのまま、あと数秒でここまで届く。


 彼らに、死ぬまで追い掛けられる。それが国際犯罪者――冒険者。亜人同士の、命懸けの追い掛けっこ。


「俺が『仕事中』に死ねば家族は解放される契約だ」

「…………今日はあなたに祈りを捧げるわ」

「光栄だ」


 笑っていた。

 その表情のまま。

 私は彼の喉を裂いて終わらせた。


「フルエート!」


 激突。魔力を纏った全力の『男性のエルフ』が、石畳を割りながら突っ込んでくる。


 彼の名はフルエートと言うのか。覚えておこう。


「……あぁあああ!」

「何っ!?」


 魔力を全開放する。ニードの鉄剣を防いだあの魔力強化を。全身で。最大で。


 妙な金属音に似た不協和音が響いた。彼と私はお互いに吹き飛んで、それぞれ建物に突っ込んだ。

 ガラガラと崩れる音。恐らく彼も私と同じで傷は浅い。


「……くっそ。魔力量は大したことねえ! メスにしてはデケエってくらいだが……。出力が異常だ! 俺と同威力だと!?」


 立ち上がる。私もすぐに起き上がる。

 体勢を整えたピュイアが、私の隣に着地した。腕を痛めている。けど威嚇を止めない。


「…………くそ」

「どうして」

「あ!?」


 彼も魔力を消費した筈。あの重さ。体格。ロープはもう無い。今空へ逃げれば追って来れないだろう。それを察した表情だ。


「どうして、同族を殺さないといけないのよ……!」


 視界がぼやけた。私は涙を流しているのだ。気付かなかった。

 ピュイアに肩を貸して、一緒に飛び上がる。やっぱり彼は追って来ない。


『殺せよ。向かってくる者は敵だ。エルフだニンゲンだと、差別するな。俺もしねえんだ』

「!」


 私が耳で情報を得ていたことも看破されていた。彼は私にだけ聴こえるように、エルフの魔法の会話で最後にそう呟いてくれた。

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