第69話 寂寞を帯びた綺羅びやかな火花
思い出した。
宇宙を見に行ったあの時。降下中に、魔力の光を見た。地平線の向こうに。
あれは、シャラーラの『火花』だったのだ。
「さて。時間だ。……見るかの?」
「ええ」
窓を開けて。崖の鋒へするりと出ていったシャラーラ。私達も後を追う。
「こんなに近くで見れるのは、シャラーラの友達だけなんだ」
「そう。嬉しいわね」
ピュイアが教えてくれた。
見ると、シャラーラは勢い良く飛び上がった。高く。高く。
「!」
光の魔法。
赤と橙と黃と。確かに、花弁が開くように見えた。何の花だろう。
シャラーラの花。
光っているだけではない。輝いていて、煌めいていて、閃いていた。ずっと遠くまで。宇宙まで届く光。けれど決して強くなくて、柔らかな光。
2分ほど、その火花は滞空していたらしい。
夕陽に映えて、私も時間を忘れた。
◇◇◇
「――毎日正午と夕方の2回。やつがれはこれをしておる。今となっては町の住民の時計代わりであるな」
ふわりと自然に降りてきたシャラーラ。無駄の無い最小限の風魔法だ。流石、洗練されている。私とは比べ物にならないほどの魔法の練度。
「…………居場所を伝えたい、相手が?」
「!」
予想を口にすると、シャラーラは薄紅の目を丸くした。
「ほう。流石、賢者の血を継いでおる。分かるか」
「……そんな気がしただけ。凄く綺麗だったけれど、どこか寂しさのようなものも感じたわ」
「…………ふむ。やはり才能に年齢は関係無いの。如何にも、やつがれは仲間を探しておる。5000年間、ずっとな」
「あなたと同じデーモンを?」
「その通りだ。……中へ戻ろう。夕食はどうする?」
「…………」
詳しく話を聞けるらしい。ピュイアと目を合わせてから、ふたりで頷いた。
◇◇◇
「デーモンには、生殖機能が無い」
再び、談話室にて。シャラーラが自ら獲ってきたという魚料理を振る舞われた。焼いて塩をまぶしただけだけれど、とても美味しかった。果物の汁を掛けるというのは目から鱗だった。
「やつがれは子を産めぬ。デーモンは繁殖せぬ。全員が1代限り。死ねば終わりである」
「……なら何故、あなた達は産まれたの? 生物としておかしいわ」
「やつがれを含むデーモンは、現生人類とは異なる種族である。概ね、ふたつ前の文明の時に『人造』されたのだ」
「!」
話がいきなり、壮大になった。人造。つまり人が人を造った。種族を創造したということ。
「……おとぎ話みたいね。神代の頃のこと?」
「今の文明がどのように歴史を解釈しておるかは知らぬが、やつがれの言葉、一言一句全てに嘘は無い。誓おう」
「…………ええ。疑わないわ。驚いているだけ」
薄紅色の瞳で見詰められる。私と同年代の外見をしているのに。この重圧は本物だ。
「続けるぞ。やつがれは5000年前に離れ離れとなった同族達を探しておる。人にも依頼したこともあった。最初の請負人がアーテルフェイスであった」
「……5000年前」
エルフは長命だ。流石に5000年は生きないけれど。恐らくシャラーラの言う、ひとつ前の文明の時だろう。彼女とアーテルフェイス、そしてエルフの祖先はそこからの付き合いということ。
「奴はアーテルフェイスの王女と結ばれた『人族』……当時のニンゲンであるな……であった。その短い人生で、ふたりの『魔人族』……デーモンを見付けてくれた」
デーモン。私が知る限り、今確認されているのはシャラーラを含めて3人。恐らくそのふたりと合わせてだろう。
「デーモンは全部で7人。その内ふたりは既に死に、ふたりは所在が分かっておる。……残りふたり。これが5000年経った今でさえ見付からぬ。苦労させおるのだ」
依頼。……恐らく。
それが、後の『冒険者』への、最初の。