第63話 真っ当で完璧な説明と実態
昼下がり。空は快晴。波は穏やか。風は南東から。
私は今、母以外の娼婦と初めて相対している。
アーテルフェイス商会員、草原のエルフ、ルフェルと。
「この商船のように、長く航海を続ける船で、それもある程度の規模になる場合、割りと大体、どの船にも常駐しているのが船内娼婦です。この船にも、私以外にふたり、ニンゲンの女性で娼婦が居ます。この船の規模だと多い方ですけどね」
娼婦。
私が教わった限りでは。陸の娼婦は、主に男性客に性的奉仕をすることで対価を貰う仕事だ。
それだけならば特に問題が無いのだが、母の場合はこれに種族問題が関わってきた。他種族の女性を拉致してきて、無理矢理自国の娼館で働かせたのだ。賃金や衛生環境等の待遇も悪く、病気の巣窟ともなった。被差別者であった多くの亜人はニンゲンの男性相手に避妊もしてもらえずに抱かれ、亜人の子を身篭ったら処分された。
消耗品として、軽く消費されてきたという歴史がある。これはオルスだけでなく、世界的にそういった経緯があると教わった。
「何故娼婦か船に居るのか。それは需要があるからです。つまり、充分に稼げる程度に男性客が見込める市場なのです。……分かりますか? 船に乗るのは大半が男性です。何故なら、男性の方が大きく強いから。船を動かすという『重労働』に適している性別だからです」
ああ勿論、例外的に身体が大きく強い女性も居るだろう。居ないとは言っていない。だが、今の説明の間は、そんな少数の例外の話をいちいち持ち出して話の腰を折る訳にはいかない。
「加えて、船に街は載せられません。分かりますか?」
「…………娯楽が無いのね」
「正解です。有り余る精力。疲れた身体を癒やす何か。……レンさんは本ばかり読んで、それが娯楽だと言いますが。あれも例外。一般的な男性はもっと原始的です。力一杯働いて。終わったら酒と肉と、女です。それが基本。この世はそれで回っています」
努力して、想像する。
私はあまり食べない。
私は酒を飲まない。
私は男性ではない。
あまりにも、遠い話。けれど、そういうものと、漠然と受け入れなければこの話は続かない。
「ともかく、事実、需要があるのです。そして、当然供給も。最初の人は言いました。『いくら払うから、船で娼婦を誰かやってくれないか』と。……私達は答えました。『それなら』と。後は他の船も真似を始めました。……以上が、簡単ですが、船内娼婦の全てです。それ以外に言うことは無いです。本当に」
「…………なるほど」
そも、不思議に思うことが変だったのだ。現実、今正に娼婦が居て、仕事として成立している。客にも娼婦側にも不満は無い。
完全に真っ当な『仕事』で、異論を挟む余地など全く無い。完璧な説明と実態だった。
「……ではここから、私個人の考えを説明しますね」
「ええ。私もあなたのこと、知りたいわ」
「後でエルルさんのお話も聞かせてくださいね」
「勿論」
ルヴィとルフェルは、どちらも、『エルフェミ』を嫌っていた。それはエルフ同士での対立を意味する。
……違うのだ。もう。考え方が違ったのならもう、種族が同じとか、関係ないのだ。
こういう所は、ニンゲンと同じで。
「私はこの仕事……。逆ハーレム最高! 役得ラッキー! マッチョにモテモテで私最強! ……と、思っています」
「!」