表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第3章:信念を持つ強い者達
58/300

第58話 会話が不可能な朝

 その場に居たのは、船員が数人と、傍らにピュイア。そして冒険者であろう客の、ニンゲンの女性。


 その、ニンゲンの女性が叫んだと思われる。


「なっ……ななっ! なにしてるのよ!!」


 女性。黒い短髪だ。年齢は20〜30代程度だろうか。革製のマントで身を包んでいる。

 指を差す先。


 船員達と、ピュイアだ。


「…………おー?」


 ピュイアはぽかんとして首を傾げた。

 私には分かった。この女性が、悲鳴を上げた理由が。


 私の他にも。どうしたどうしたと、他の冒険者も甲板へやってきていた。


「こっ! この人達! 今! このハーピーの子のむ、胸を! 揉んだわっ! 痴漢!」


 そういうことだ。私が昨日、納得したこと。けれどこの女性は今初めて見て、驚いたのだ。声は大きいが、私と同じように。


「ち、カン? ってなんだ?」

「まっ!? 知らないの!? どんな教育を受けてるの!? あなた達! こんな若い女性に好き放題性的虐待を、日常的にやっているの!? 冒険者なのに!!」


 痴漢……。ルフが教えてくれたことだ。確か、親しくもない女性の身体を無許可で触る行為をする男性のことだ。


「女性の人権侵害よぉ!! 警察を呼んで! こんな気持ち悪い船に乗っていたなんて!」


 叫ぶ女性。

 首を傾げたままのピュイア。

 同じく、船員達。


「あの」

「!?」


 つい、話し掛けてしまった。教えてあげれば納得するだろう。私も驚いたもの。


「彼らは彼らの文化があって、お互いに納得して、恐らく昨晩の時化での操舵に関して慰労を、ピュイアが行っていたのよ。なので特に問題は」

「あなたエルフねっ! あなたからも言ってやってよ! この船おかしいわ! 若い女性を食いものにする男根主義の性差別集団よ!!」

「…………? 話を聞いてくれる?」

「声を上げなきゃっ! ほら、エルフとして! 告発しなきゃ! 差別反対!」

「…………ちょっと、大丈夫? あなた興奮しすぎてない?」

「責任者を呼んで! こんなの許されないわ! 商会は全員強姦魔よ!!」

「…………話を」


 声が大きい。私の言葉が掻き消される。これは、会話にならない。意思疎通ができない。こういう場合、どうすれば良いのだろう。……あのオルスでの無駄な裁判を思い出す。いや、あの時ですら、私の言葉は相手に伝わっていた。

 ああ。私の声は小さいのだ。身体が小さいからだろうか。声を無理矢理張り上げて私まで感情的になってはいけない。会話が困難というより不可能になってしまう。


「……うるせえなあ〜!」

「!?」


 こういう場合、どうすれば良いのだろうか。勿論魔法を使って、今すぐ彼女を黙らせることは可能だ。しかしそんなことをすればもう、彼女との関係性は修復不可能になってしまう。

 と、私が考えていると。


 もうひとつの魔力を背後から感じて。


 同時に上空からバケツを引っくり返したような量の水が、ニンゲンの彼女の頭へと降り掛かった。


「わぶっ!? げほっ! ……!?」


 水の魔法だ。近くに居た私にも掛かった。海水じゃない。海から汲んだのではなく、今ここで、生み出した水だ。


「朝っぱらからよぉ〜! 何をキーキー喚いてやがるんだ。権利ザルが!」


 現れたのは。

 エルフの女性。商会員の服装だった。ピュイアより少し年上に見える。


 黄金の髪と瞳と。

 私のような白い肌ではなく。褐色の肌をした人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ