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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第3章:信念を持つ強い者達
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第52話 繰り返す出会いと別れと因縁

 人生とは、心の旅だ。肉体の場所は問わない。自分が死ぬ時に、その心はどう()()()か。そこを目指して、皆旅をするのだ。


 ……読んだ本に載っていた文だ。旅。私だけじゃない。皆、旅をしている途中なんだ。

 私が死ぬ時。世界と私はどうなっているのだろうか。今は全く想像できない。


「エルゥざぁぁん!」

「ちょ……ちょっとディレ。あはは」


 旅立ちの日。結局、あれ以来支部へは寄っていない。けれどディレは暇を見付けてよく農場へ遊びに来てくれた。2週間に1度は、フーエール先生を連れて。


 街の出口で。ユーマンから船のチケットを貰う。冒険者ギルドのシンボルである、『目の付いた革靴』が描かれている。これは、自分の目と足を使って世界を股に掛ける旅人のシンボルだ。シンボルの他にも、何やら暗号が書いてある。私は詳しく知らないけれど。

 これを港町ユダスにいるとある人物に見せると、本部行きの船に案内されるという。


「じゃあね、エルル。またいつでも来てね。あはは。エルルの魔法が便利すぎて、次からの収穫が大変そう」

「……ええ。必ずまた来るわ。本当にありがとうファル。……ディレも。あなた達にはいくら感謝しても足りないわ」

「うええん。エルルざん……!」

「ディレ。あなたはきっと、良い看護師になるわ。また会いましょう」


 私より6つも年上だとは思えないけれど。ディレは私から離れようとしない。暖かい。この暖かさに何度救われたか。


「エルル」

「ユーマン」


 私はこの日までに、全ての返済を終えた。支部での宿泊費、食費、器物破損の弁償。全てを。

 フーエール先生にもだ。診察代、薬代。全て。


「海の向こうでは、エーデルワイスではなく、アーテルフェイスを名乗ったら良い。本部の人達にはそれで伝わる。君が会うべき人と会える」

「…………分かったわ。どうせ説明しないのでしょう。深くは聞かないわ。元々、森を出てからエーデルワイスは名乗っていないのよ。ただの、いちエルフとして世界を旅したいの」

「ああ。君の旅に幸運を」


 ようやく、ディレが離れてくれた。ふたりの間に冷たい風が流れる。


「餞別だ」

「先生」


 フーエール先生から、小さな木箱――薬箱を渡された。エルフの丸薬だ。


「不意の頭痛腹痛から、まあ色々と。説明書きも入れてある。よほど危険な病気などに罹らなければ、普段の体調不良はそれ一式で事足りるだろう」

「ありがとうございます」


 確かに、お金は払い切った。料金は全て。けれど。

 本当にそれで、全て返せたのだろうか。この恩を。

 私はそうは思わない。この人達に何かあれば必ず。私にできる最大限の力で、助けになろうと誓う。


「じゃあ、さよなら」

「ああ」

「ふむ」

「うぁぁ」

「うん!」


 旅は続く。出会いと別れを繰り返して。

 人生の執着まで、それは終わらない。






◇◇◇






 空は飛ばない。無駄に魔力は使わない。南シプカでは魔法使いの飛行規制が無いのに誰も飛んでいないのは、それだけ無駄だからだ。私はそこに気付くべきだった。あんな上空でなくても良いのだ。日常で、少しだけ浮く程度で。何も目立つ必要も無い。長距離移動の必要も、無い。


「待てよ。クソガキ」

「ええ。ようやく話し掛けて来たわね」


 皆と別れて、しばらく森を歩く。

 私は数人の冒険者に囲まれた。その中心人物は、あのニードだ。


「……あれ、『クソガキ』? メスとか、エルフとかは良いの?」

「うるせえ。最初から最後までムカつくガキだ。……決闘だ。こいつらは手を出さねえ」

「そう。分かったわ」


 鉄風のニードが、11歳の少女に敗けた。エルフであることや魔法のことは削がれて、そんな不名誉な情報が出回った。彼の面目は丸潰れ。彼を指定していたお得意様の依頼も減ったらしい。

 私には関係ないけれど。


 そっちがその気なら、最後に相手してあげるわよ。

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