第51話 孤独を感じる冬の終わり
雪が解ける。
冬が隠していた、大量の遺体が露わになっていく。
ウルザ平原。南北シプカ激戦区。……元。
「それじゃあ、頼むよ」
「ええ」
風上の高台から。私はこの冬に覚えた火の魔法で彼らの遺体を焼き撫でていく。
彼らは戦士だった。身元も確認され、この平原に並べられている。北の兵士も混じっている。
その数およそ、2000人。
弔い炎は瞬く間に雪を蒸発させながら、隣へ隣へとその範囲を広げていく。
大火葬の魔法。
北の兵士は、私の魔法による葬送を良く思わないだろう。けれど、これが南のやり方だ。死人に口無し。従ってもらうしかない。
「凄いな。聞いて想像していた以上だ。この範囲を炎の海にするとは、どれだけの魔力を持っているんだ」
「…………魔力は殆ど使っていないわ。最初の火種と、それを支える風だけ。後は自然に、燃え広がるの。風が風を呼び、火が火を呼ぶ。後は他の不要な場所へ広がらないようにする程度で、既に大火葬は私の制御下から離れているわ」
私の隣には、依頼者である隊長が居た。私の仕事に感心してくれている。ニンゲンの男性だ。佇まいと雰囲気で分かるようになった。彼はあのニードと同じかそれより強い。
「助かったよ。ニンゲンにはこんなことはできない。燃やすことはできるけれど、そんな細かい調整は中々な」
「……戦争はどうなったの?」
「うーん。難しいな。俺より上の人達が決めることだ。今のところ南北線に変更は無い」
「そう……」
私はエルル。エルル・エーデルワイス。
オルス大陸オルス国文化的亜人保護区――通称巨大森出身。
母はエルフの女王。父は、ニンゲンの強姦魔。社会的弱者である亜人と、性犯罪者であるニンゲンとのハーフとして生まれた。
キャスタリア大陸南シプカ、エソンの街に来て、数ヶ月経った。
12歳になった私は、自分の身体と魔力との折り合いを付けることができるようになった。ただ魔力を放出して魔法を使うのではなく、効率よく使用する方法とそれを考え生み出す知恵を会得した。
月に一度の、ニンゲンのメス特有の生理現象、月経は。私がハーフである為か、魔力侵蝕のタイミングと重なって来ることが結論付けられた。これは普段どんなに気を遣って魔法を使っていても、使わなくても、起きる。通常の生活をしていて体内に溜まっていくものなのだ。その期間は活動できない。魔法も使えない。食事も摂れない。きちんとケアして過ごせば3〜4日で治まる代わりに、その期間は殆どベッドから降りられない。ピークは大体2日目に来る。老廃した魔力を帯びた血が食道を逆流することもあり、会話もできなくなる。
エルフの医師であるフーエール先生と一緒に、私は私を研究した。その結果。
私は、未開の地にひとりで足を踏み入れて、好きなように何ヶ月も跨いで旅を続けるということが。
実質不可能であるという結論に至った。
ショックだ。私の目の前に、ひとつひとつ、丁寧に絶望が置いてある。暗黒魔力のせいで宇宙へは飛び出せないし、ひとりで安全に旅もできない。
こんなエルフは私だけだし、こんなニンゲンは私だけだ。
判明した時、酷く孤独を感じた。
◇◇◇
「あたしもさ。ナメられるよ」
「えっ?」
農商人であるファルの自宅に居候させてもらっている。2階建ての家屋だ。ひとりでは広いと部屋を1つ借りている。他の従業員もしばしば泊まっていくような、暖かい家だ。
「女だからね。この家買った時だってそう。不動産屋さん、ずーっとトットに話し掛けてるの。あたしが代表だって言ってるのに。……まあ、最初は分かるよ。一般的には男性が多いのは事実だし。けど説明しての2度目以降はねえ。失礼よねそんなの」
「…………まあトットは身体が大きいものね」
「あはは。確かに。大将! って雰囲気あるもんね」
冬が終わる。
そろそろ、また、旅立つ時。




