表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第2章:自由という重い責任
41/300

第41話 儚き夢に見る自分の根源

 夢への解釈は、歴史や世界を学ぶ上で興味をそそられた記憶がある。

 ある古代国家では、神官という役職者が満月の夜に見る夢によって国の行く末を占い、王に進言していたという。

 またある研究によれば、見た夢の内容によって、その人の性格や悩み、その解決方法などが判断できるという。

 夢と現実は密接で、信仰にも繋がり、神の国とも繋がる道であり。

 一般人でも手軽にできる神秘体験として、広く認知されていて。

 脳の休息であり、記憶を整理している過程で過るノイズであるという説もあって。


 夢を見た。


 母が居て。その隣に、男性が立っている。

 彼の顔は分からない。笑っているのは分かるけれど、どんな人物か、形をなしていない。

 ただひとつ、耳が短くて丸い。目も鼻も分からないのに、それだけがハッキリ分かる彼の特徴だった。


 安心感と嫌悪感を同時に持った私は、男性へと手を差し出すのだ。握手の為に手を開いているのか、殴打する為に拳を握っているのか、自分でも分からない。


 私はきっと、彼に対して怒っている。けれど、心のどこかで彼を望んでいることにも気付いている。


 私はエルフと、ニンゲンの間に生まれた子。

 私の姿形はエルフだったけれど、きっといずれ、成長するにつれて出てくるのだろう。そんな予感はある。私にもある、ニンゲンの部分が。


 私を形作るものであり、私を置いていったものであり、エルフと対立する者達であり。


 その男性に対して感じるのは、怒りと悲しみと、慈しみだった。


 少しだけ、意識がはっきりしてくる。ああ。夢だ。もう覚めるだろう。


 折角なので、はっきりと夢の中で拳を握って。


 彼を殴っておいた。






◆◆◆






「………………」


 身体が怠い。動かない。腕や足の節々が痛い。筋肉や骨が痛む。同時に、擦り傷や切り傷が身体中で痛みを叫んでいると分かる。

 頭痛はまだ続いている。お腹も重いままだ。ただ、感じる感触は暖かく、柔らかかった。あの固い床じゃない。冷たい水じゃない。

 ベッドの上だ。ふわふわの掛け布団を掛けられている。


「…………ん」


 魔力も少ない。上手く魔法は使えなさそうだ。また水を暴発させるといけない。なんとか自分の力だけで、上半身をゆっくりと起こした。ああ。頭が揺れる。


「…………」


 ぼんやりとしていた視界が少しずつはっきりしてくる。木材を加工して敷かれた床には血痕が残っていた。私の血だ。私に破壊された机は撤去されている。私を助けて、掃除をしてくれた人が居るのだろう。お礼をしなければならない。


「……い……っ」


 腕。包帯が巻かれていた。頭もだ。後頭部を触ると、大きくコブができていた。その頂点はきっと出血していたのだろう。

 怪我の応急処置まで。


 服は着ていなかった。全て脱がされたのだろう。怪我の処置には必要だ。それに、旅の泥だけでなく血も着いてしまった。ルーフェから貰った服を汚してしまった。


「こちらです先生……あっ」

「おや、起きているね。気分はどうかね」


 ふたり、部屋へ入ってくる。ひとりはディレだ。もうひとりは、小柄で痩躯な、老齢の男性だった。白衣。恐らく医者なのだろう。


「………………」


 医者、なのだろう。

 落ち着け。今私は魔法を使えない。魔力を…………。


「……エル、フ」

「ああ寝ていなさい。君の事情はここへ来るまでに聞いた」


 エルフの男性だ。耳が()()()()()()()だった。今は少ししか感じないけれど、きっと魔力もある。


 初めて出会う、エルフの男性。


「ご気分いかがですか? フーエール先生は隣町からいらっしゃってくださったんです。エソンには、エルフのお医者さんは居なくて。私、エルフのこと、その。分からなくて」

「……ディレ」

「はい。大丈夫ですか? お水飲みますか?」


 机は撤去されているけれど、椅子は倒れたまま残っている。それを立たせて、この男性は座った。


「ありがとう。いただくわ。……先生、大丈夫です。聞かせてください。……私の身体のこと」

「……ふむ」


 エルフの、医者。

 訊きたいことが多すぎる。私は頭とお腹の鈍痛に耐えながら、ディレからコップを受け取って。

 半口飲んで。鼻から息を吸って、口から吐いて。


 フーエール氏と目を合せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ