第299話 断るA級からのアドバイス
「おーい、エルルさん」
席に戻る途中、ニンゲンの男性から声が掛かった。
新生ヒューザーズ、現リーダーのヒートだ。赤髪が特徴的。
ヒューザーズはあとドワーフ男性とニンゲンの女性だったけれど、見るとメンバーが増えていた。
エルフ男性だ。
「ヒューザーズの皆、久し振りね」
「おうよ。こっち座りなよ」
「エルねえちゃーん」
キノはドワーフの彼におんぶされて遊んでいた。異種族に対してここまで人懐こいのは才能だ。私も結構救われている。
「キノとは初めてじゃないのね」
「まあな。俺達、エデンに帰ってきたら割とトヒアの家に寄ってんだ。その後墓参り」
「……そう。メンバー増えてるわね? 彼は?」
「ああ。エルフのルエーズ。ミーグ大陸出身の『海岸のエルフ』だ」
「ミーグ大陸の」
ルエーズは私に対して、ペコリを頭を下げた。日に焼けた肌に、チリチリの黒髪。
「お初に。エルル姫様。この度は誠におめでとうございます」
「ええ。ありがとう」
「んでよ、エルルさん。俺達からの話は、レナリア大陸へのルートのことだ」
「!」
座る。
これは聞いておかないといけない。
「俺達はいつも、大運河を避けて、魔海から入ってた。エーデルワイス独自のルートでな。だが、海竜の棲息域が拡大してたんだ。ヒューイはそれに巻き込まれた形になる」
「……では、海上で海竜に殺されたと?」
「いや、海竜程度じゃヒューイは死なねえ。海竜の棲息域が拡大した事で、別の何かを呼んじまったんだ」
「何か?」
「ああ。ヒューイはソイツに殺されたと考えてる。情けねえ話、俺達はヒューイのお陰で逃げ出せたんだ」
そうか。
魔界の任務は、ルフを抜いたヒューザーズで行っていた。けれど、亡くなったのはヒューイだけ。
そして現場に居た彼らも、ヒューイの最期は分からない。状況的に、まず助からないと、経験豊富なA級冒険者の彼らが判断したんだ。
「…………私達が辿るルートでもあるのね」
「そこは、分からねえ。今回使節団が帰ってきたってことは、別ルートを使ったと思うしな。女王様の判断になるだろ」
ミーグ大陸を越えた先、レナリア大陸までの航路のどこかに。
何かが居る。
「だが、何せ魔界はニンゲン界とは違う。環境も敵生物も、何もかもな。敵性魔族もやべえ」
「……ありがとう。気を付けるわ」
「ああ。まあ、同じA級にこんな上からのアドバイス、本来は無礼に当たるんだがな」
「同じA級と言っても、経験が全く違うわ。私達は初めての魔界だし。寧ろもっとアドバイスが欲しいくらいよ」
「良いのか? 話しすぎると自分達の冒険の『発見』という楽しみを俺達が奪っちまう」
「あっ。確かにそうね。ではもう止めてね」
「はははっ! 良いな。エルルさんも、どうしようもねえ程『冒険者』だな。じゃあ、アドバイスはやめとこう」
恐らくルフは、ヒューイの消息を追いたいだろう。私もそれに付き合うつもりで居る。
トヒアの言う通り、リベンジだ。
私は私の旅の中で、やりたいことを全てやる。
「キノは冒険者にならねえのか?」
「うん。わたしねえ、キャスタリアの学校に通いたいの。植物のお医者さんになりたいの!」
「ほう! 良いじゃねえか! 応援するぜ! 行く時は言えよ。俺達が安全に送り届けてやるから」
「えへへー! やったあ! それも冒険だよね!」
ヒート達にとっては、ジンやキノは甥や姪のようなものなのだろう。微笑ましい光景だ。
今はよく、こういう光景を目に焼き付けておこうと思う。




