第298話 憧れる次代の後継者達
「エルル」
「ええ」
私だけ、残るよう言われた。トヒアは自分の席へ戻っていった。
「すまんな。王族の婚礼の儀は準備が必要で、お主らが旅立つまでには間に合わん」
「構わないわよ。そもそも私、エデンの王族という自覚はあまりないし」
「じゃがやるぞ。お主らが魔界から帰って来た時。種族を挙げて」
「……良いの? 私はアーテルフェイスの自覚が無いし、相手はニンゲンなのよ」
「良い。お主はエルフの姫じゃ。誰が何と言おうと。我らエデンとアーテルフェイスは、お主を受け入れる」
「………………ありがとう。この外交を成功させることで、少しは恩を返せるかしら」
「充分じゃ」
私は感謝しなければならない。あんな事件があったというのに、その娘である私を受け入れてくれたエデンとアーテルフェイスに。
「それと。お主には紹介しておかねばならん。ほれ、お主ら」
「?」
ルエフに呼ばれて。
ふたり。男女のエルフが私の目の前にやってきた。
若い。恐らく10代。ルエフと比べると分かる。見た目こそ若いけれど、ルエフは魔力が違う。このふたりは本当に若いと分かる。
「エイル・アーテルフェイスです」
「……フェリアス・アーテルフェイス」
森林エルフ王族の所作で、挨拶。ああ、忘れていた。私も習った挨拶だ。額に手を当ててから、お辞儀。
「エイルが14。フェリアスが13じゃ」
「…………彼女が次代の、『エルフの姫』ね」
「そうじゃ。エイルはこれから姫としての教育を行う。フェリアスはわしの後継者として育てる。ふたりが、次世代のエルフを担うことになる」
エイルの長い髪は白い。恐らくイェリスハートの血。フェリアスの肌の色は濃い。こちらは砂漠エルフの血だろう。つまりどちらもルエフの子。
混血という意味では、私と同じか。純血のアーテルフェイスは、ルフェルで終わり。彼女もニンゲンの子しか産まない。その姉であるルフも。
そして、現エルフの姫である私も。
「……会えて良かったわ。これで私は、思い切り冒険ができる」
「エルルお姉さま」
「『お姉さま』?」
真面目そうなエイルが、私をそう呼んだ。
「はいお姉さま。エイルは外国、魔界に興味があります。お姉さまの姫としての手腕、このエデンの地から、学ばさせてもらいます」
「…………そう」
家系図的には、私はルエフの来孫だから……。
私にとってエイルは、高祖叔母?
フェリアスは高祖叔父?
寿命の長い種族はこの辺りぐちゃぐちゃになるわね……。
まあ、年齢的な観点から、お姉さまと呼んでくれているのだろうけれど。
「エルル……お姉さま。僕は魔法に興味があります。今度、時間があればで良いので、他の大陸や魔界の魔法を教えてください」
「…………ええ。分かったわ。今度の旅が終わって、帰ってきたら。約束ね」
エイルもフェリアスも、私に対して悪感情は感じなかった。
私の父のせいで、生まれて。私のせいで、使命を受けたと言っても過言ではないのに。
冒険者であり、エルフの姫である私に、憧れてくれている。
「…………お姉さま、ね」
「はっはっは。仲良くしてやってくれ。アーテルフェイスはこれから大家族に、もう一度なる。お主らが、する。のう」
「……ええ。そうね。帰ってきたら、昆孫を見せてあげるから」
「楽しみじゃのう! 家族が増えることは幸せじゃ! また寿命が延びるわい!」
確かに、私が会うべきだった。
会えて良かった。私が途中で死んだ時の代わりということではなくて。
「ま、まだまだあと数十年は、対外的なエルフの姫はお主じゃがの」
「別に、いつでも継いで貰って良いわよ。エイル、私よりしっかりしてそうじゃない」
次代のエルフ。この子達の為にも、頑張ろうと思えたから。




