第297話 愚かな者を支援する者たち
本当は、ルーフェとルフェルも呼びたかったのだけど。ルーフェが遠慮したらしいのだ。まあ、流石にもう席は一杯だったから。家もそこまで広くは無いし。
ということで。
大森殿。
「あばばば……」
「トヒアあなた、大丈夫?」
「あば……あのねえエルちゃん……。私達庶民にとっては、もはやおとぎ話の世界なんだってばば……」
「ずっと同じ島に住んでるのに」
「だ、大森殿なんて、ギルドマスターくらいしか行かないってば……」
全員集合だ。
ルエフにフェルエナ、ルエフの妻達とその子ら。
ルーフェとルフェル。
新生ヒューザーズのメンバー達。
母とメイドに。
私達トヒア家組。
流石にアーテルフェイス商会組は来れなかったけれど。
「よう来た! よう集まった! わしがエルフの王、ルエフ・アーテルフェイスじゃ。今宵の酒席は――」
楽しそうなルエフ。ここは大森殿に用意された巨大な会食場。ニンゲンや他の種族用の食器も並んでいる。
立食パーティのようだ。まあ、多種多様な人達が集まるし、正式な婚礼の儀でもない。ただのホームパーティの規模を大きくしただけ。
「う……。実感してきた。ウチのアホのジンが、本当にエルフの大事なお姫様を、ふたりも……」
「トヒア。ほら。ルーフェが来たわ」
「はきゃぁ」
ジンはルフと一緒に、エルフ達に挨拶に回っている。私もそうしたかったけど、この様子のトヒアをひとりにできない。というかトヒア、今日の主役でもあるのに。
キノは……。ヒューザーズの皆に、ヒューイの話を聞いてるみたい。
「トヒア様。はじめまして。ルフの母のルーフェ・アーテルフェイスと申します」
「ルフの妹のルフェルです」
「は、はじめまして。トヒア……です」
ルーフェはアーテルフェイスではあるけれど、オルスに居た時も王族であることは隠していたらしい。今も、普通に草原の集落で暮らしている。
「ルフェル。大丈夫なの?」
「今はまだ、多少なら大丈夫ですよ。私も、トヒアさんとキノちゃんにお会いしたかったので。ジン君とは何度か会ったことありますけどね」
妊娠中のルフェルも来てくれた。流石に、お腹の子の父親候補達は来ていないけれど。
……思えばあの水夫さん達とも親族になる可能性があるって、ちょっと変な感じね。
「トヒア。ルーフェは私がオルスから出る時にお世話になったのよ。まあその時は、ルフのお母様だなんて知らなかったけれど」
「そ、そうなんですね……」
「トヒア様。ご子息のジン君は凄いですよ。ルフは結構、恋愛で苦労したみたいで。それが、エルルが認めた相手なんて。これが一番良い結果になったと思います」
「……ただの、貧乏冒険者ですが……」
「何より大事なのは、お互いの信頼です。この3人の間には、それが充分にある。それだけで、ルフの母親としてこんなに嬉しいことはありません」
最後にルーフェは、私を見た。
「そして、あなた達の仲が良い。良いわね。エルフィナとよりも、親子っぽく見えるわ」
「ふふっ。そうかもしれないわね」
「……エルちゃん……」
そう。私とトヒアは仲が良い。
きっとそれは、幸運なのだ。
「父や兄達が居たら、ジン君をどう思ったでしょうね。母さん」
「そうねえ。あなたの仕事も反対していたお父さんは、少なくとも難しい顔をしたでしょうね」
ルフの父親と兄……ルーフェの夫と息子達は、ゲンを捕らえた際に魔界で亡くなっている。
できることなら私も会ってみたかった。
「トヒア。ルエフへ挨拶に行きましょう」
「うん……。もうドキドキし過ぎて心臓痛い……」
「大丈夫? 少し休む?」
「……ううん。行く。ジンの母親として、しっかりしないと……」
「私の義母でもあるわよ」
「あはは。そうだねえ」
よろよろのトヒアを支えながら、ルエフの席を目指す。
◆◆◆
「おじいちゃん」
「おう。よう来たエルル」
「だっ。大長老……さま……。本物……」
ルエフは相変わらず、姿形は少年エルフだ。2000歳超えとは思えない。きちんと今でも『賢者』なのだろう。
「名は、なんと?」
「……トヒア……です」
「トヒア。冒険者の妻じゃったそうじゃの」
「はい……」
私はこの時点でルエフが何を言おうとしているのか分かった。
この人は一生、誰にでもこの話をするのだろう。
「それで喪い、次は息子も冒険に送り出す」
「はい」
「そんな自分を、愚かだと思うか?」
「…………」
トヒアはもう、ルエフの話の途中からは緊張が抜けていた。きっちりと、妻、あるいは母の顔をしていた。
「思います」
「じゃが、やるのじゃな」
「はい。多分それが、『ニンゲン』です」
ルエフは当然、笑った。
「冒険者への支援。それがアーテルフェイスの理念じゃ。愚かな子らを、支えてやってくれ」
「はいっ」
トヒアも良い返事で返した。




