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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第12章:託される愛と使命
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第296話 冒険者を癒す暖かい家

 ある日。

 母が、家にやってきた。

 オルスから連れて来たメイドをふたり伴って。


「はじめまして。エルフィナ・エーデルワイスと申します。エルルがいつもお世話になっております」


 事前に、言ってはいたけれど。


「じょっ。じょじょ。女王様……!」


 トヒアは緊張しまくりで。


「遅くなってしまい申し訳ありません。本来なら一番にお伺いするべきでしたのに」

「そんなっ! めっめ滅相もございません! さあどうぞ! 汚い家で申し訳ありません!」


 今日は休日。キノも1日家に居る日。

 私達を含めて全員揃うのを、待っていたようなのだ。






◆◆◆






 大人数用に用意していたテーブルは、この時の為にあったのだろうと思わされる。母の両サイドに私とルフが座り、ジン、キノ、トヒアが続く。


「ルルゥ。あなたも座らないと」

「…………私は……」


 メイドふたりは当然のように母の後ろに控えた。ルルゥの元同僚だろう。ルルゥは、自分がどうすべきか悩んでいるようだった。


「大丈夫よ。あなたは今、この家の住人で。私のメイドなのでしょう? なら座って。一緒に食事をするだけよ」

「…………かしこまりました。失礼いたします」


 トヒアの隣にちょこんと座った。

 母は何も言わない。当たり前だ。ルルゥについてはもう、何も言わせない。


「森殿で出る食事とは、少し違いますね」


 母が、トヒアとルルゥによって並べられた皿を見て言った。


「お母様。エデンの海産物はとても美味しいです。彼女(トヒア)の料理の腕は保証します」

「それは楽しみだわ」


 この食事会は。

 母が、以前から望んでいたらしい。

 普通の住宅に母が居るのは少し珍しい。


「きれいなひと……」


 キノが小さくそう呟いたのを、恐らくこの場のエルフ全員が聞き逃さなかっただろう。






◆◆◆






「母ちゃ……母さん、緊張しすぎでしょ」

「いやだってさ……。女王様だよ? 私なんて孤児の平民以下の冒険者くずれの未亡人の……」

「やめてくれ。俺がなんか恥ずかしい」


 ジンと私が結婚するということは。

 トヒアは、エルフの王族の、親族になるということだ。


「このお団子、ルルねえちゃんが張り切ってたんだよ」

「そうなの? 美味しいわね。キノ、学校はどう?」

「楽しいよ! 今度発表会があってね!」


 恐らく母は、私の結婚相手について何も言わないと思う。元より私を政治から遠ざけていた母だ。本当に好きな相手なら、反対なんてしない。


「……暖かいですね」

「はいっ!?」


 食器を置いて。母がトヒアに話しかけた。


「この皿から。部屋の空気から。インテリアから。この家の人々の暖かさを感じ取れます。恐らく冒険で疲れた身体と心を、充分に癒せる空間作りが行われている。(エルル)は本当に、良い出会いに恵まれたのでしょう」

「ひゃっ……。そんな。ありがとうごじゃいます……!」


 トヒアの気持ちも分からなくない。自分の家にいきなり女王が来たのだ。こうなって不思議じゃない。


「……トヒアさん。あなたの旦那様から、あなたのことは聞いたことがあるのです」

「…………!」


 ヒューイは。

 母からの依頼を受けていた。それが、私達を引き合わせる原因になった。

 トヒアの表情が変わった。


「本来なら一番に。あなたに会って謝らなければならなかった。私の依頼で、あなたの旦那様を喪ってしまったこと」


 この話に、なると。誰しもが予想できた。


「大丈夫です。女王様」

「!」


 トヒアは、笑っていた。


「彼は冒険者です。依頼は強制ではありません。危険なことなんて百も承知で冒険者をやっていました。それで何かあっても、依頼内容と依頼主に文句を言うような冒険者は居ません。だから、謝る必要はありません。私に対してなんて、尚更」

「……トヒアさん」


 彼女は冒険者の妻として、その覚悟はできていた。

 母は、また自分の依頼でジンを巻き込むことも悩んでいたのかもしれない。


「今度の冒険も、女王様のご依頼なんですよね?」

「……はい」

「じゃあリベンジですね。しっかりしなよジン」

「分かってるよ。姉ちゃん達は絶対に守るから」


 母は驚いていた。

 この辺りが、トヒアの人柄なのだ。


「……あの、女王様」

「…………エルフィナと、呼んでください。トヒアさん。私達は家族になるのでしょう?」


 私を見た。強く頷いた。


「……エルフィナ、さん」

「はい」

「本当に、ウチのジンで……良いんですか? ニンゲンで、身分も無くて、エルフ種族の大切なお姫様を」

「はい。問題ありません。何も」


 トヒアは出会った最初から、私を受け入れてくれた。正に、本当の娘のように。

 どれだけありがたいことか。


「ジンさん」

「はい!」


 不意に呼ばれて、ジンの声が上ずった。


「エルルをよろしくお願いします」

「……はい!」


 そして、良い声で大きく返事をした。


 嬉しかった。

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