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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第12章:託される愛と使命
295/300

第295話 情けなく格好悪い幸せ

 大森殿裏の山小屋。

 トヒアの家では流石にできないから、私達はここに集まるようになった。


 3年前に互いの想いを確かめ合った、あの小屋だ。


「………………」


 既にふたりは来ているようだった。そして既に、ルフがやってくれたようだ。ふたりは屋根の上で並んで座っている。


 私はなんとなく、小屋の玄関にもたれかけて、ふたりの会話を聴くことにした。ルフには魔力探知でバレているだろう。それも込みで。






◆◆◆






「……俺さ、聞いたんだ。魔界の、医療の話」

「はい。ああ、そう言えば言っていませんでしたか。異種族間では子供は生まれにくいのですが、亜人とニンゲンではさらに生まれにくいそうなのです」

「…………俺はさ」

「はい」

「姉ちゃん達を、守るんだ。絶対。何に替えても。命の限り。それだけはずっと、子供の頃から、俺の一番強く思ってることなんだ」

「はい」

「でもそれは、俺がひとりで思ってるだけでさ。姉ちゃん達は強くて、当たり前だけど冒険者をずっとやってて。俺なんかより、能力もあって。エル姉ちゃんなんかドラゴンを仕留めるくらいだ。魔法も使えない、ニンゲンの俺がって、思うよ」

「はい」

「ふたりは、それでも俺を受け入れてくれて。だから一層、強くならなきゃって思ってる。まだまだ俺は、昔の俺が思うほど強くなれてない。なれてないまま、魔界行きが決まっちゃって」

「はい」

「…………俺はどうしたって、ニンゲンだから。俺の命が尽きるまでは姉ちゃん達を守るけど。どうしたって、姉ちゃん達の方が長生きするじゃん」

「はい」

「それがさ……。情けなくて。こんなこと考えてウジウジして、当たり前のことで悩んでるのはカッコ悪いのは分かってるし、それを当のルフ姉ちゃんに言うのもホント情けないんだけど。……まだ俺はガキなんだよ」

「ジン。ガキで情けなくて良いです。言ってください」

「………………!」


 分かる。

 分かるよ。ルフ。


「ルフ姉ちゃん……!」

「はい」

「好きだ。こんな情けない俺を支えてくれるルフ姉ちゃんが好きだ。絶対に幸せにする。俺が生きてる間は一生守り抜く。だから俺と一緒になって欲しい。結婚して欲しい。俺の子供を産んで欲しい。絶対に、後悔なんてさせないから!」

「…………はいっ」


 ジンは、本当は言いたいこと、やりたいこと、沢山あるのよ。私達に遠慮して、パーティリーダーである私を立ててくれている。


「……………………」


 彼はヒューイの子だ。血は争えない。それは私が誰より実感してる。

 彼は生まれながらの冒険者で、才能に恵まれて。リーダーだって、本来なら私より適任の筈なのよ。


「…………さて。ジン。あなたはヒューイ以上に、男の甲斐性を示さなければなりませんね?」

「うん。エル姉ちゃんも、登ってきてよ」

「…………」


 ジンにもバレていたようだ。風魔法でふわりと、ふたりの元へ。


「聞いてた……よね」

「勿論。エルフの耳は飾りじゃないわ」

「……俺、全く同じなんだよ。エル姉ちゃんが好きだ。俺を冒険者の世界へ引っ張ってくれる姉ちゃんが」

「ええ」

「強くなるよ。エル姉ちゃんの夢、寿命が尽きるまで、死ぬまで手伝う。姉ちゃんの障害は全部俺が叩き潰す。どんなニンゲンより魔法使いより、ドラゴニュートよりだって強くなる」

「ええ」

「だから俺と結婚して欲しい。俺の子供を産んで欲しい。その子も俺が、絶対に守るから!」

「ありがとう。産むわ。絶対」


 抱き締められた。


「!」


 彼から来たのは、初めてかもしれない。びっくりしたけれど、それ以上に嬉しい。


 そして。


 肩を掴まれて。

 キスをした。ルフともしていたのだろう。


「………………」


 暑い。

 心臓が、飛び出てきそうだ。


「ジンあなた、トヒアに何か言われたわね」

「うっ……」

「ふふ。良いわよ。それで良いの」


 射精の後のプロポーズ。指輪も何も無い。母親に叱られた後のプロポーズ。ムードも何も。


 幸せだ。

 それ以外に無い。

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