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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第12章:託される愛と使命
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第292話 少しずつ整理する過ごし方

「………………」


 旅の疲れを癒やして。ここに居る間はなにもしなくて良いから。

 そう、トヒアにもルルゥにも言われている。だから、朝起きてからキノを見送って、母の元へ行くまでの間、少し暇なのだ。


「あの、姫様。どうされましたか」


 台所で朝食の洗い物をするルルゥの手元を見ていると、ルルゥから苦々しい感情が漂い出した。


「……ルルゥも魔法、使っているわね」

「それは。私もエルフですから。ここは魔法禁止ではありませんし」


 ルルゥは家事に魔法を活用している。派手なものではない。結構地味に。

 とても丁寧で。まるで彼女の人柄が魔法に表れているようで。


「綺麗な魔力の流れ。洗練されているわね」

「毎日同じことの繰り返しですから」


 例えば水の魔法。食器を洗っている時に既に次の食器を洗う用の魔力を左手に溜めている。そうすることで途切れることなく洗い続けることができる。

 それも、最小限の魔力と動きで。


「私の魔力量も魔法の練度も、家庭レベルです。せいぜい王宮での仕事にも応用できるくらい。冒険者である姫様からすれば地味で弱く拙い魔法ですよ。見ていても意味は無いのでは」

「そんなことないわよ。使い方が違うってことは、勉強になるってことよ。でも、ルルゥが見られて嫌そうにしているから、もう止めるわ」

「そんなことは……」

「ねえルルゥ」

「はい?」


 ルルゥもここの生活に慣れてきたようだ。母が来ているのに大森殿へ行っていないのが証拠。なんというか、母より私を選んでくれた気がして、嬉しい。


「私に言いたいこと、して欲しいことがあったら遠慮なく言ってね? 今回はひと月しか居られないから」

「………………」


 ピタリと、ルルゥの手が止まった。


「特にありません。強いて言うなら、しっかり休んで次の冒険に備えてください。そして、必ず無事に帰ってきてください」

「…………ええ勿論。分かっているわ」


 ちらりとこちらを見た表情は、幼子をあやす時のように笑っていた。ルルゥにとって私は、まだまだ子供なのだろう。






◆◆◆






「疑似再現……。次の魔法を溜めておく……」


 夕方。

 母からの指導が終わり、その帰り道。


 私は安全な今の時間こそ、魔法の研究ができると思った。ゆっくり休まなければならないのはそうなのだけど、だからといってひと月も休んでいたら鈍ってしまう。


「ヒントは得られましたか」

「うーん……。少し、実験してみたいことはあるわね。一応、暴発しても良いように山か海で実験したいわ」

「なら、明日は島の裏側へ行きましょうか。そう言えばエルルを案内したことは無かったですね」


 草原の集落で家族と過ごしていたルフと合流する。


「…………ねえ、10年後はきっと私達、母親になっているわよ」

「まあ、そうでしょうね」

「結婚式も出産も、トヒア達は立ち会えないわね」

「仕方ありませんね」

「…………ここを発つ前に、皆で集まって食事でもできないかしら。ルエフも母も、トヒア達もヒューザーズも、レン達も」

「……ふむ。確かに、私達ニンフの関係性を公表はしていませんもんね。ではそれも明日、それぞれに相談してみましょう。大森殿はお願いします。私は商会とヒューザーズを。彼らがいつ島に戻るかは分かりませんが」

「分かったわ。ありがとう」

「ジンから、はっきりプロポーズの言葉でも欲しいですけどね」

「まあ、あっても無くても変わらないわ」

「それはそうですが……。エルルはたまに、デリカシーに欠けますね」

「自覚はしているわ。だからあなたを頼るのよ」

「ずるい女ですよ」

「ふふっ」


 少しずつ、整理していく。シャラーラからのアドバイスと。母からの指導と。ルルゥからのヒントを。

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