第287話 逃げる訳にはいかない使命
エデンに帰ってきた。今回は3年振りだ。終わってみれば短い旅だったかもしれない。
なんというか、冒険はしていたいのだけれど、帰るのも大好きだ。
「姫様……!」
「ルルゥ」
久し振りの再会で、抱き締め合うのが好きだ。ルルゥは約束通り、私を抱き締めてくれた。冒険や筋肉と無縁の、もちもちの腕、ふわふわの肌。
「ドラゴン討伐、並びにA級昇格、おめでとうございます……!」
「ええ。ありがとう」
「姫様」
ずっとこうしていたかったけれど、ルルゥの方から離れた。そして、私と目を合わせる。
「長旅でお疲れのことと思いますが、大森殿にて大長老様と女王様がお待ちです。姫様と、ルフ様にお声が掛かっております。ご案内いたします」
「…………そう。分かったわ」
ここはまだ港だ。別に今日この便で帰るとは伝えていない。手迎えはルフだけ。恐らく彼女は、レンの船の着港日に毎回来ているのだろう。そこまで頻繁でもないから。
「エル姉ちゃん」
「ええ。悪いけど先に家に戻っていて」
「うん……」
ジンには悪いけれど、恐らくエルフという種族全体の話だから。
まあ結局、後でジンにも共有すると思うけれど。
「分かってるよ。姉ちゃん達、種族のお姫様だもんな。普通、ただの島の子で、家名も無い冒険者の息子の俺じゃ気軽に謁見もできないくらい、身分が違う」
「そんなこと……」
「良いって。後で、皆で一緒にご飯を食べようよ。母さんもキノも、勿論ルルゥさんも一緒にさ」
「…………ええ。勿論。トヒアとキノにもよろしく言っておいて」
身分、か。
私はエルフの姫。
どこまで行っても、変わらない事実。
◆◆◆
「お怪我やご病気は」
「無いわよ。大丈夫。船内で感染症の確認もしたわ」
エデンにある森。中心の大森殿。エルフ族の王家が住まう樹の宮殿。
大長老と謁見する為の広間に、ルエフと母が並んで座っていた。凄い光景だ。
ルエフの背後に、彼の奥さんが3人居る。それぞれレイゼンガルド、イェリスハート、そしてレドアンからの砂漠のエルフだ。ゲンの事件の後に娶った、他の里のエルフ達。
そして、その横に私の曾祖叔母であるフェルエナも居る。ルエフの孫で、私の祖母フェルナの母の、妹らしい。
「大長老様。女王様。エルル姫様とルフ姫様をお連れいたしました」
ルルゥが畏まって、ふたりに告げた。
「ご苦労さまルルゥ。下がってください」
「はい。失礼いたします」
そして、母のひと言を受けて退室した。
「よく帰ってきた。エルルにルフよ」
「……ええ。おじいちゃん。エルルはまだまだ元気に冒険を楽しんでいるわ」
「エルル。大長老に対してそのような」
「良い。エルフィナ。これはわしからエルルに頼んで呼んで貰っておるのじゃ」
「…………そうですか」
ルエフと母が並んでいる。魔力量が凄まじい。ふたりとも賢者なのだ。つまりエルフの『到達点』。魔法使いとして、私が目指すべき頂点。
「早速本題に入ります。プレギエーラからの返信、そして招待状が届いています。今の所、プレギエーラはあなた達を歓迎していると言って良いでしょう」
「はい」
「あなた達もパーティとしてA級。つまり魔界入りの資格を得た。全ての準備が整ったと言えます」
「はい」
「ここからミーグ大陸までではありますが、エーデルワイスの使節船で送ります。出港はひと月後。それまで充分に旅の疲れを癒し、英気を養ってください」
「はい。船の手配、ありがとうございます」
「それと。プレギエーラについての詳しい情報と、外交のやり方。そして私達ニンゲン界のエルフが魔界へ伝えたいことを、私の口から直接あなた達に伝えます。同じ温度で、プレギエーラと接して欲しいから」
「はい」
「…………私からは以上です。エルルは後ほど、私の部屋まで来てください」
「はい。お母様」
本格的に、エルフの姫としての使命が授けられる。私はこれから、逃げてはいけない。
母は私を自由にさせてくれていて、その範囲内で依頼をしているに過ぎないからだ。




