第286話 皆身内みたいなもうひとつの家
ドン。
正午の『火花』を見て、私達は出航した。シャラーラからの激励の火花だ。いつ見ても鮮やかで、丁寧で繊細な魔力操作。
「綺麗ですよね。私、毎回楽しみにしてるんです」
「ええ」
勿論今回も、レンの船だ。彼はラス港へ寄る度に毎回、会報を届けにシャラーラの屋敷を訪ねているようで、それが私達の迎えとなった。
「ルフェル。あなた、もしかしてふたり目?」
草原エルフでありルフの妹でもある船内娼婦のルフェルは、確か私達が3年前にエデンを出る時にひとり目を妊娠していた筈だ。
「はい。こんな偶然もあるものですね。本来ニンゲンとエルフでは、子は授かりにくい筈ですが」
そして今も、彼女は先日妊娠が発覚したらしい。このままエデンに戻って、また休養だ。
「いいなー! あたしもそろそろ子供欲しいなー!」
「ピュイア」
甲板でシャラーラの火花を観覧していると、空からピュイアが降りてきた。胸、また大きくなったんじゃないかしら。
「ではイアちゃんも誰か船員と寝れば良いのでは?」
「いいの? ルフェルの男じゃん」
「別にそういう訳ではありません。というかイアちゃん、私の仕事知らないんですか」
「うん!」
「もう何年やってるんですか……」
ピュイアは私より4つ上だけれど、出会った時から顔立ちは変わっていない。当時の私より幼く見える。身体も小さい。ハーピーはそういう種族なのだろう。
もっとも翼を広げれば、誰より大きいけれど。
「えーでも、あたしが産むならレンの子が良いなあ」
「レンさんはニンゲンですよ? それに妻子持ち。諦めましょう」
「えー。ハーピーはそういうの気にしないけどなー」
「あなたが産みたいのなら、相手の価値観に合わせましょう」
「確かに!」
この船も変わらない。どこか安心する。
「よおエルル」
「ルヴィ」
甲板にルヴィもやってきた。褐色肌で金髪ボブカットの砂漠エルフだ。
「ドラゴン倒してA級になったってな。おめでとう」
「ありがとう。あなた達に教えてもらった砂漠のエルフの魔法、役に立っているわ」
「そんなら良かった。皆で飯食おうぜ。冒険の話聞かせてくれよ」
「ええ。勿論」
◆◆◆
「やあ。久し振りだなエルルさん」
「レン。少し老けた?」
「やめてくれ。俺はまだ29になったばかりだ」
「苦労してるんですよ。イアちゃんやルヴィちゃんの世話で」
「おいルフェル。ピュイアはともかくオレは世話掛からねえだろ」
「どうだか」
「あはは……」
レンも、亜人の女の子達に囲まれて生活している。けれどハーレムではない。彼にはニンゲンの妻子が居るし、ルヴィは故郷に夫が、ルフェルは船員達との子供が居るからだ。
「姉さん。私もうふたり目ですよ。姉さんはどうなんですか」
「それはめでたいですねルフェル。私のことは心配してくれなくて結構です」
「ねえレンさん。気になってたんだけど、レンさんもアーテルフェイスなんだよね」
「ああ。俺はアーテルフェイスに拾われた孤児だからな。だからまあ、エルルさんとは別に血が繋がってるとかそういうのじゃない」
「ルフェル肉食べたらー?」
「私は食べませんと、10年くらい言い続けてますけど」
「そうだっけー?」
「オレも一度はドラゴンくらい倒してみてーな」
「じゃあ、来年エルックリンに?」
「いやいや、流石にそこまではなあ」
わいわいと、賑やかな食事。多種多様な種族と性別が交じって。
この船も、もうひとつの家みたいなものだ。実際ルフとルフェルは姉妹だし、私とレンも一応アーテルフェイスの家族。皆身内みたいなものだ。
こういうのも、良い。




