第285話 さらりと渡される重い祈り
「そういえばシャラーラさん。ウチの師匠が訪ねてきた?」
「ああ。カナカナであるの。半年ほど前に来たぞ。よう伝えてくれたの。ジン」
…………。
魔力を操るにも私のリソースが……。
いや、それでも可能なのか?
寝ている時はどうなる?
いや……。
「ヴァルキリーの名がここまで来た理由。黒銀がこの世界に存在する理由。……やつがれの友人の、想い。色々と判明した。貴重な会話であった。礼を言おうの」
「…………なら良かった。師匠、あんまりそういう話興味無いと思ってたけど」
「まあ、この世界に来たヴァルキリーもそれから時が経ち、伝承は殆ど途切れておる。だが、それでもなお、残っておったこともあった」
「そう?」
「ああ。顔がの。そっくりであった」
「師匠の顔? 師匠の先祖の、シャラーラさんの友人に?」
試してみる価値はあるか……。けれど、私の手から離れたら……。うーん……。
「であるの。それだけでも、価値のある出会いであった。性格も似ておる。ヴァルキリーなのは間違いない。わっはっは」
◆◆◆
「エル姉ちゃん」
「わっ。えっ。なに?」
考え込んでいた。急にジンの顔がぬっと現れて、驚いてしまった。
「さっきからずっと何かぶつぶつ言ってるけど」
「……ええ。シャラーラに言われてから、考えているのよ。私がもっと、魔法を使えるようになるためには」
「……なんだか俺には分からないけどさ。無理しないでくれよ」
「それは……どうかしらね。必要なら何度も無理するわ」
「まあ、姉ちゃんはそういう人だって知ってるけどさ」
カナカナは、無事にシャラーラと会えたようだ。考えながらも、耳で会話は拾っているのよ。
「もうここを発ったのね」
「行き先は聞いておらぬ。あの者も生来の旅人であるの。まあ、いずれどこかで会えるであろ」
「……うん。もっと俺も成長して、もっともっと進んだ先で、師匠と再会できたら良いな」
◆◆◆
「いよいよ魔界であるの」
「ええ。デーモン捜索の依頼、忘れていないわよ」
「ふむ。ではやつがれが探しておるふたりのデーモンについて、話しておこう」
確か、現在確認されているデーモンはシャラーラを含めて3人。
残りふたりというから、全部で5人。
7人居たけれど、ふたりは既に死亡している。ここまでが私の知っているデーモンの話。
「『光の線のアシェア』。そして、『魔の法のセヘル』。やつがれが探しておるふたりの名である」
光の線のアシェア。
魔の法のセヘル。
シャラーラは火の花だったか。名前の前に付いているのは、その人を表す二つ名だろうか。
「ふたりのそれぞれの特徴は伝えるが、居場所の心当たりは無い。しかし、5000年経とうが簡単に死ぬとは思えぬ。この広い世界のどこかには居る筈である」
「……ええ」
ゲンの話だと、魔界に居るデーモンはニンゲン界を滅ぼそうとしている明確な敵だ。
けれど、私はそれを信じない。
シャラーラの同族だからだ。会ってみないと判断はできないから。ゲンの言葉を真に受ける訳にはいかない。変な先入観は要らない。
「やつがれの遣いだと判断できる物も渡しておこうかの」
そう言って、シャラーラは私に何かの鱗を渡した。
私の持っている、ファイアードラゴンの逆鱗と似ている。
白く光る金色の鱗。光の加減で、虹色にも見える。
「これは?」
「竜王レナリアの鱗――輝竜の雷鱗である」
「!」
竜王レナリア。
これから行く、レナリア大陸の名前の由来にもなった九種紀の女王。5000年前の、竜王。
「そんな貴重なもの……」
「良い。既に魔力は尽き、ただの鱗である。というかこの屋敷に他に何枚か保管しておる。1枚持って行くが良い」
普通に。
博物館に展示されているような、歴史・考古学的にとても価値のあるとんでもないお宝だ。そんなものを、さらりと。こんなA級成りたての冒険者に。
「これを持っているのはやつがれだけであるからの。デーモンに見せれば、分かるであろ」
「…………分かったわ。あなたの思いとして、大事に持って行くから」
「ああ」
重い。
けどそれがまた、私達を高揚させる。




