第284話 万能を疑似再現するヒント
その日はシャラーラの屋敷でぐっすり寝て、翌日。
「本日は快晴。海水浴日和である」
彼女のそのひと言で、私達は海へ出た。
◆◆◆
アルニアで経験した湖水浴とは違って、海には波がある。
脱力して海面に浮かび、ゆらゆら波に遊ばれている。
冷たくて気持ち良い。リラックスできる。
「そう言えばエルル。疑似再現魔法でドラゴンを倒したそうだの」
「ええそうよ。鉄塊疑似生成魔法ね」
こつん。
私と同じように揺られていたシャラーラと頭がぶつかる。
お互い、視線は真上の青空。
「魔力による物体の疑似再現は九種紀時代の魔法にも通ずるところがある。案外、汝はそっちの才能もあるやもしれんの」
「そうなのね。……ねえ、私がもっと強くなるにはどうしたら良いと思う?」
「ふむ? 汝は世界各地でその土地の魔法を学んでいるのではないのかの」
「それは続けるけれど……。もっと根本的なことなのよ。私の身体は私の魔法に耐えられない。継戦能力が欲しいの」
「ふむ」
魔素に愛された種族デーモン。何かヒントでも掴めたら良いのだけれど。
「魔法とは、ほぼ万能である」
数秒考えて、彼女が語り始めた。
「ええ」
「自然現象を再現させ、物を動かし、無から有を生み出す。勿論長い修練が必要になるが、最終的に魔法はほぼなんでもできる。極めて万能に近い」
シャラーラの言う通りだ。魔法が使える。その利点はとんでもなく多い。
「中でも疑似再現の魔法は万能性が高い。使い手の想像力次第で可能性は無限大である。頭の中の物を現実に表現する。質の高い集中力と想像力が必要であるが、これこそがこの世界、この時代の魔法の極致であると言えよう」
「…………」
私の、想像力次第。
何ができるだろうか。今ある手持ちで。
「汝が苦労している魔力侵蝕は、どのような場合に発生し、深刻化するのだ」
「……魔法を使う度に。体内に、魔力が通う度に。私の中のニンゲン部分の肉体が魔力に侵されるのよ。一般的にニンゲンが外部から影響を受ける魔力侵蝕よりも、侵蝕の度合いと速度が大きく速くて」
「魔力を、ゆっくりと小出しにすれば抑えられるのかの」
「…………ええ……。そうね。でも、それだと魔法になるまで時間が掛かるから、戦闘時には結局リスク覚悟で一気に魔腺を開くしかなくて」
「ふむ。では、そこが課題であるの」
「!」
魔力侵蝕が起きない程度のへろへろの魔力では、魔法にならない。魔法の使用と魔力侵蝕は切っても切れない。
のだと。
「魔力侵蝕を抑える魔力の出し方で、魔法を使うこと。これができればある程度は解決するの」
「…………!」
思っていた。
「……疑似再現…………」
「わっはっは」
シャラーラは笑った。
「…………」
この人は凄い。
何が、デーモンだからヒントにはならなさそう、だ。まるで、彼女自身が魔力侵蝕に悩まされてきたことがあるかのように。
「どうだ?」
「…………ちょっと、思い付きそう。でも。いや……。うーんと」
「わっはっは。汝は本当に賢いの。そうだ。自分で思い付け。やつがれから答えを貰うよりも、精度が高くなる」
海水浴に来たのに。
私は泳ぎも遊びもせずに、それからずっと揺られながら考えていた。




