第281話 教わったことのない武器
手を見る。
魔力を少し放出。
また、手を見て。握ったり開いたり。
「どうしました?」
不思議に思ったルフ。
「……私の魔力量と放出速度に、魔腺が耐えられなかったのよね。今後、どうしようかしらって」
ドラゴン戦の時。
全力で全開にして戦った。ありったけ、全ての魔力を使い切った。
戦いの後、魔力を身体に流すと痛みが走るくらい、魔腺を傷付けていたと判明した。
魔力が魔腺の内側を摩擦して炎症を起こしたり、擦り傷になったりしたのだ。
「たまに、そういう人は居ます。というか、エルルが典型ですね。自身の魔法の才能に、身体が追い付いていない。エルルの場合、魔腺が細く弱いということではありません。魔力量と出力が飛び抜けているのです」
勿論、普段からそんなに飛ばして魔法は使わないけれど。今後……魔界で戦闘になった際、ドラゴンより強力な敵も現れるだろう。そういう時。
一瞬躊躇してしまうかもしれない。
「魔腺は鍛えられるのかしら」
「可能でしょう。エルルはまだ成長途中ですから」
「私、もう23よ?」
「ニンゲンならそうですが、エルルは半分エルフですし。可能性はいくらでもありますよ」
ガタン。ゴトン。
汽車に揺られて。
ふと向かいの席を見ると、ジンが寝てしまっていた。寝顔は子供の頃のままだ。
「……今より強くなるには、どうしたら良いかしら」
「ドラゴンの鱗を貫けるなら、もう威力は必要ないレベルですよ」
「なら、その威力を常に大量に出せる継戦能力が必要ね。戦いの度に、敵からの攻撃を受けていないのに自分の魔法で重傷になるのは、もうやめないと」
「…………!」
「えっ?」
そう言うと、ルフは目を見開いて私を見た。
「エルルがようやく、自愛を……!」
「ちょっ。なによそれ」
そして、まるで娘が初めて言葉を喋ったかのように嬉しそうな表情をした。
「成長しましたね……!」
「そ、そうなの? 私だっていっつも痛いし苦しいし。仕方のないことだと割り切っていたけれど、魔界の冒険では生き残れないかもしれないじゃない」
「そうなんですよ。エルルはもっと、後先を考えて戦うべきなのです。いつもいつも自殺かと思うほどギリギリまで自分を追い込んで」
「だって、そうでもしないと戦いにならない強い相手ばかりだったもの。スペックの不利を覆す為には、リスクは負うべきなのよ。その考えは変わらないわ」
言いたかったのだろう。ルフを見てそう思った。もっと自分を大事にしろと。けど、私の覚悟も知っているから。尊重してくれていた。
「どうすれば良いのかしら」
「エルルの戦闘は基本的に魔法ですからね。魔法のエキスパートに訊くのが一番でしょう。もしくは、魔法以外の戦闘技術を身に付けること」
「エキスパート? 魔法以外の戦闘技術?」
そして。ずっと考えていたからこそ。ルフの中には既に、答えがあったらしい。
「一応シャラーラ殿にも訊くとしても。デーモンとエルフでは勝手が違うかもしれません」
「そうね。古代魔法もよく分からないし」
「だから、エルフィナ様がいらっしゃいます」
「!」
母から魔法は、実は教わったことが無い。あの頃の母は、私を政治や戦争から遠ざけようとしていたから。
「魔法については言わずもがな。そしてなにより、森林エルフとして外せないのは『弓矢』でしょう。今からでも、修得するべきだと思います」
「弓矢!」
そうだ。
森のエルフは弓を使う。なのに私は、一度も触ったこともない。
「ルフは使えるの?」
「いえ。私は草原のエルフですから。習うのはナイフ術です」
そう言えばレドアンでルヴィにも言われたな。そうか。弓か。確かリーリンも使っていた。訊けば良かったな。
母に、訊いてみよう。




