第279話 褒めて足りない功労者
「……でも、『有名な冒険者』って、別に居ないわよね」
「そうですね。一般に知られるという意味では居ないでしょう。どの国も、秘密にしていますから」
「俺達の間だけか」
「それにしても、ヒューザーズもツヴァイハンターも余り聞かないけれど。六化六強だって私が知ったのは最近だし」
「六化六強は別に冒険者に限りませんからね」
「俺達もドラゴン討伐は公表されないから、A級になっても名前は売れないよな」
「私はそれで良いわよ。討伐してないし」
汽車に乗る。何度目だろうか。
私達は1週間で試験に合格し、まだここで仕事があるというリーリンに挨拶してから、エルックリンを発った。
A級冒険者の肩書を手に入れた。
けど、実感は無いに等しい。ギルドの扱いが変わるだけで、私達は変わっていないからだ。表彰も何も無い。ただ、通達されただけ。
「ジンは有名になりたいの?」
「そりゃ、俺は冒険者を目指してたからね。子供に憧れられる冒険者に」
「ふふ。ならもうなれるわよ。エデンに帰って、子供達に聞かせてあげれば」
「あー……そっか。確かに」
今、隣町に向かっている。まだ山は降りない。
国際国境騎士団の拠点がある町。一応、挨拶くらいはしておかないとと思って。
◆◆◆
冒険者と違い、国境騎士団は有名だ。特に、国境付近の国では。
彼らは町の広い敷地に大きな建物を構えていた。
「あっルフさん!」
「おいルフさん達が来たぞ!」
受付を済ませると、あの場に居た団員のひとりが私達を見付けたようだ。
彼の案内で、団員達が居る訓練場へ向かう。
「いやあ、俺達の被害があの程度で済んだのはルフさんのお陰ですからね。何人かは直接守ってもらって。俺だって、ルフさんが居なきゃ死んでたでしょう」
皆、歓迎してくれた。特にルフにだ。
「いえそんな……。私は……」
彼女は照れながら謙遜していた。しかし嬉しそうだった。
彼女は騎士団と一緒になって、ドラゴンの動きを止めてくれた。だから、レイゼンガルドや私が魔法を射撃しやすく、戦いに集中できたのだ。
「良かった」
「ジン?」
団員達が集まって、ルフを囲んでいる。それを眺めて、ジンが呟いた。
「ルフ姉ちゃんさ。あんまりああいうこと無いじゃん。ちゃんと活躍してるのに、褒められること」
「…………そうね。いつも一歩引いているようだし、他人から見たらあなたの方が目立つし」
「ルフ姉ちゃん、俺達のこともそうだけど、いつも気を回して、色々考えて、サポートしてくれてるんだからさ」
「ええ。遠慮がちよね。功労者なんだから、もっと褒めて甘やかさないと」
「うん。ははっ」
ルフは元ヒューザーズで、ベテラン冒険者だ。経験豊富で知識も知恵もあって、私もジンも頼りにしている。冒険も戦闘も得意で。
さらにはルエフの血を継いでいる姫でもある。
高スペックだ。それでいて謙虚で気遣いができて。
美人。
そうだ。もっと褒めて良い。足りない。
「来てよかったわ」
「うん」
ルフも、もっと自分を出すべきなのだ。
エデンの子供達には、ルフの英雄譚を聞かせてあげよう。




