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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第12章:託される愛と使命
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第278話 心して辿る英雄の道

 この世界で冒険者ギルドに所属する冒険者になるには、特別な資格は要らない。

 身分も要らない。お金も掛からない。ただ受付で冒険者登録をしたいと言えば良い。


 登録する情報は名前に年齢、種族など色々あるけれど、文字を書けなくても職員が代筆するから問題ない。

 どんなにどん底まで落ちても、冒険者になるという選択肢はある。


 勿論、命の保証は無い。収入も不安定だし、自分のことは全て自分でしなくてはならない。

 死んだら終わり。全て自己責任。


 大国の普通の家庭に生まれると、冒険者という選択肢はまず無い。家もお金も学もあるのに、わざわざ危険な道を進むなんてあり得ない。

 冒険者とは、別に人から憧れられるようなものではない。幼い頃、創作で触れて憧れるかもしれないけれど。大人になる頃には分別が付いている。町で見かける冒険者は汚れていて臭く、物騒で、美しくない。


 でもそれは、『C級』までだ。要するに、町で見かける冒険者の殆どはC級以下である。


 『B級』まで上り詰めると、町の英雄だ。国から要請を受けたり、国によっては国賓待遇があったりする場合もある。世間的には冒険者は犯罪者集団だと言われているけれど、国家の上層部は分かっている人は分かっている。魔界の魔族達が攻めてきたら、矢面に立って主戦力になるのはB級以上の冒険者であると。


 そして『A級』は。国の英雄だ。王族が直接雇うようなレベル。魔界へ行って、戦利品を持って帰ってくるという偉業が可能だからだ。


 そう。あのペルソナも、アルニアの英雄な訳だ。あれでも。


 そういう訳で、この筆記試験に求められるものも、最低限の識字能力と、ある程度の思考力、計算力、知識、常識、品格などなど。魔界のことだけじゃない。冒険者として恥じないスキルが求められる。






◆◆◆






「終わったぁ〜」


 ギルドの待合室にて。

 試験をなんとか終えたジンが、ぐったりと机に突っ伏していた。


「お疲れ様。結果はすぐに出るらしいから、このまま待っていましょう」

「俺、文字書くの苦手だから。不安だよ」

「エデンの訓練校でも習ったじゃないの」

「そうだけどさあ」

「それに、文字が読めないと買い出しひとつとっても苦労するわよ。ジンはいつも私達に頼っているけれど」

「うっ……。そうだよね。頼ってばかりじゃ駄目だ」

「まあ、重い物持ったりするのは私もあなたを頼っているから、お互い様で良いけれど」


 話していると、ルフも戻ってきた。彼女は時間いっぱいまで見直しをしていたらしい。性格が出ている。私がせっかちなだけだろうか。


「まあ再試験もできますから、いつかは通るでしょう」

「あ、そうなんだ?」

「でなければあのヒューイが合格できる訳がありません」

「あはは……」


 ヒューイ。ジンの父親だ。魔界で亡くなった。


「…………そうか。母の遣いでプレギエーラに行くということは、ヒューイの使った経路よね」

「……………………うん」

「心して行く必要がありますね」


 彼は、その道中で亡くなった。つまり、それを辿る私達も。その危険性がある。何が待ち受けているかは分からないけれど。


「父ちゃん……」


 その真相を解明して安全な経路を確保する。それも、今回の私達の任務のひとつだ。


 ヒューイ。

 私をこの世界へ導いたあなたの、道を。私もこれから辿るわよ。

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