第277話 現役女王からの丁寧な手紙
「エルル様。こちら、お預かりしておりますお手紙です」
「ええ。ありがとう」
最後に、受付に手渡された手紙。これが本題だ。
母の筆跡で、エルフィナ・エーデルワイスと書かれている。間違いない。
ドラゴン退治依頼の成功報酬と一緒に受け取って、支部を出た。町へ降りて、宿を取らなくてはならない。
ここは、エルックリン山脈のクレイス高原という。広い高原に、牧歌的な町がいくつかある。
宿を取ってすぐに、部屋で手紙を開けた。
「…………去年の夏に、オルス支部に預けたようね」
「9ヶ月ほど前ですか。仕方ありませんよ。エルフィナ様の居るオルスからここまでは、距離がありますから」
よもや手遅れ、なんてことはないだろうか。少し怖いけれど、内容を確認する。
◆◆◆
文章は、流石現役の女王というか。娘の私に宛てたものであっても丁寧なものだった。時候の挨拶から、私達の身の心配。エルフというより、オルス人のような文章だ。母もオルス生まれでオルス育ちだから、特別変わっている訳ではないけれど。
「要約すると、4つ。プレギエーラから返信が届いた旨。私達を受け入れてくれるようだという旨。そして、戦争を止める為の交渉材料について。後はミーグ大陸へ着いてからの案内図」
レナリア大陸へは、ミーグ大陸の大運河を渡って向かう。ミーグ大陸までの船については手紙には無かったけれど、問題ない。アーテルフェイス商会の船に乗せてもらうだけだ。
「期限は大丈夫なのですか?」
「ええ。数年以内なら大丈夫そうよ。まあ、ニンゲン界から魔界へ行く時点で長旅だし、そこは大雑把に見て貰わないとね」
「あー。亜人って寿命長いから時間間隔もゆっくりしてそうだよなー」
荷物を降ろしたジンが呟いた。確かにそうかも知れない。あまりのんびりはしていられないけれど、焦って急ぐ必要も無いのだ。
「まあ、大氷壁から大運河まで、つまり私達が今から進む道は、ニンゲン界の端から端までですからね。半年で着けば早い方でしょう。エルルが途中で寄り道しない限りは」
「しないわよ」
「ははっ。姉ちゃん寄り道好きだもんな」
「えっ。そんな風に思われているの?」
「間違いなく寄り道好きですよ。レドアンでの旅の時だって――」
ともかく、概ね予定通りだ。
座学の試験については、いつでも受けられるらしいから。
この町で少し勉強して、とっとと取ってしまおう。
◆◆◆
「ではエルル。今夜はどうしますか?」
「そうね。療養中に思い付いて、やってみたかったことがあるのよ」
「?」
今夜はどう、とは。つまりジンのことだ。私が完治するまでは、ずっとルフが相手をしてくれていたのだけど。
「姉ちゃん?」
ベッドに座る彼を押し倒す。
キスをする。
なんという分かりやすさ。これだけで彼は期待で膨らんでしまう。
毎日毎日飽きないのだろうか。
まあ私だって、飽きないのだけれど。
ああ。思えば部屋をひとつしか取っていなかった時点で、彼は期待していたのだろう。
欲を言えば、もう少し自分から来てくれても構わないのだけれど。
「なるほど。まるで幼児のように甘えさせる遊戯ですね」
「そう。好きかなと思って」
膝に彼の顔を乗せる。彼の所在なさ気な手を取って、私の胸へ。
もう子供ではないと言うかしら。でも私にとっては、思い返すのはあなたの幼少期。
この胸だって、無邪気に触っていたじゃないの。
「うっ……」
早い。
効果は抜群だったようだ。




