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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第11章:実力を示す戦い
272/300

第272話 託される数千年の名

 エルックリン山脈には、秘湯がある。その湯は魔素が濃く溶けており、なんと浸かるだけで治癒魔法の効果があるという。

 その秘湯を、私達や戦士達に使ってくれたようなのだ。


 レイゼンガルドの女達が。


「エル姉ちゃん!」

「ジン……。あなた手が」


 亜人の回復力はニンゲンより高い。数日で歩けるようになった私は、ルフに肩を借りながら、洞窟内の広場でジンと再会する。


 彼の両手は酷い火傷が遺っており、それは二の腕まで走っていた。痛々しい。


「大丈夫だよ。見た目ほど痛くも無いんだ。完治自体はしてる。もう剣も振れるんだ」

「……手袋は?」

「焼けてなくなっちゃった。黒銀はギリギリ、ちょっと残ってるよ。今、洞窟エルフの裁縫上手な女の人に頼んで整えて貰ってる。……まあ、なんとかなるよ。俺はヴァルキリー流免許皆伝だし」


 触る。ゴツゴツした男の、手。

 私をブレスから守る為に、無茶を。


「……ありがとう」

「…………うん」


 彼に守られた。それが嬉しかった。


「もう良いのか。エルル」

「ルード。ええ。取り敢えず、歩けるくらいには快復したわ」


 ルードもやってきた。戦士達はこの1ヶ月、山脈内をずっと警邏していたという。


「あの群れ……。何だったのかしら」

「ああ。その話もしよう。席に着いてくれ」


 この場には騎士団は居なかった。もう、麓まで降りているという。

 ルフに支えられて、腰を下ろす。


「まずは、今回の竜の季節は終わった。恐らくはこの先数年は、ドラゴンは来ないだろうというのが俺達の見立てだ」

「そうなの?」


 ルードが切り出す。


「昔から、ドラゴンの群れが高高度に現れ、特に被害無く去った後は、エルックリンに平和が訪れるんだ。50年振りだが、恐らくはそうなるだろう」

「…………なるほど」

「詳細や理由は分かっていないがな。話を戻す。国境騎士団の被害は15人の死亡、36人重傷、後は全員軽傷だ」

「…………15人」


 あんなものに、盾ひとつで突っ込んでいったのだ。そりゃ、死ぬだろう。


 死なせてしまった。


「彼らはお前に礼を言っていた」

「どうして?」

「この程度の被害で済んだからだ。俺達からも、礼を言わせてくれ。今回のドラゴン被害がこの程度で済み、終わったのは。お前達の働きのお陰だ」


 ルードを筆頭に。

 後ろに控える戦士達が一斉に、私達へ頭を下げた。


「…………きちんと実力を、示せたかしら」


 こういう時。

 無駄に謙遜してはならない。そう思う。

 彼らと私達は、命を懸けていたのだから。


「ああ。レイゼンガルドは誰ひとり、お前の実力を疑わない。それは血や名前ではなく、行動で。俺達洞窟エルフは、お前を王と認める」

「!」


 どくん。責任が心臓へ届いた音。

 私が。彼らに、エルフの姫として、心から認められた。その魔力が、伝わる。


「レイゼンガルドの名を。エルフ姫アーテルフェイスへ還そう」

「……良いの? 私は冒険者だから、レイゼンガルドの名を魔界のドワーフへ送り届ける前に途中で死ぬかも知れないわよ」

「良い。我々はお前に託す。それに足る実力を見せてもらった」

「………………分かったわ。確かに」


 この旅は、必要だった。

 A級昇格試験というだけではなく。

 私は一度、必ず、ここへ来なければならなかった。


「数千年の……肩の荷が下りる」


 ルードが最後にそう呟いた。

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