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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第11章:実力を示す戦い
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第271話 北の空へ消える絶望の群れ

 鉄の(やじり)は。

 下から穿つような地を這う軌道でドラゴンの肩に直撃。そのまま鱗を貫いて、体内へめり込んでいく。


 ドラゴンの怒号。大きく仰け反る。私はまだ気を緩めず、鏃をドラゴンの体内で滅茶苦茶に暴れさせる。


 コントロールから離れて、鏃が消えた時。爆風が発生した。


「姉ちゃんっ!」


 ジンが駆け寄ってきて、煙を吹く腕で私を抱いて庇った。彼の肩越しに、ドラゴンを睨む。


 ドラゴンはなんと、羽ばたいて飛んだ。飛び上がったのだ。既に騎士団達の猛攻を受けて傷だらけ、私に穿たれて穴の空いた翼で。なおも、上昇する。

 なんという生命力。


 駄目だ。今、上空からブレスを吐かれたら全滅する。防御を。


 だけど。肩にぽっかり空いた穴から、大量に血が流れ出ている。長くは無い筈だ。ドラゴンの驚くべき生命力に、届いた筈だ。


 ここで逃がしたくは――


「待て!」

「!?」


 そこで。


 私達の視界が唐突に暗くなった。


 皆が上を見上げる。今はまだ、午前中の筈だ。雲が出たとしても、こんなに、夜のように暗くはならない。


「………………群れだ」


 傷付いたメスのファイアードラゴンの、さらに上空に。


 空を覆う、ドラゴンの群れがあった。


「…………まじかよ。これ……」

「おいおい……滅びるぞ。人類」


 あの。

 たった1頭に、ここまで苦戦して。なのに倒せなくて。逃がしてしまったドラゴンが。


 見る限り、数十頭。無傷で大空を覆い尽くしている。


 絶望。私達が死ぬだけじゃない。こんなドラゴンの群れが来たら。どんな国だって敵わない。滅びる。


 ふらふらと、私達が戦っていたドラゴンが群れへと向かう。

 群れの方から、1頭、ひと回り大きなドラゴンがそのドラゴンの元へ降りてきて。


「!?」


 大きく長い顎で、『彼女』の首に噛み付いた。

 その鋭い牙で擦り切られ、容易く鱗を貫通し。そのまま噛み砕き。

 頭と首がふたつに分かれて、『彼女』は絶命した。


 大きなドラゴンはそれから私達を一瞥して。


「…………?」


 群れへと戻っていった。


「危ないっ!」


 ズドン。

 ドラゴンの屍が地面と激突。衝撃と風圧がやってくる。


「……仲間割れ?」

「共食い……?」


 ドラゴンの群れはこちらへ降りてくることもなく、北の空――魔界の方へと消えていった。






◇◇◇






 それから次に私が目を覚ましたのは、1ヶ月後らしい。


「エルル」


 いつも、目を覚ますとルフが居る。これがどれほど私に安堵感を与えてくれるか。


 抱き寄せる。ここは。


「洞窟内部の女用住居です。エルルは姫なので、男の戦士達と同室ではなく、ここを貸してくれました」

「…………そう。ありがたいわね」


 勿論、私は別に男性達と同じ所で治療を受けても問題ないし、それを拒絶などしない。けれど、洞窟エルフ達の敬意と配慮を無下になどできない。


 耳は――聴こえる。脚は――動かないが感覚はある。

 ここは木造の住居の一室だ。暖かく、清潔で綺麗な部屋。私は白い羽毛布団のベッドで眠っていたらしい。


「あなたとジンの怪我は」

「大丈夫です。私もジンも五体満足ですよ。私もまだ完治はしていませんが、数日前から起きています。ジンは今、多分戦士達と筋トレしています」

「………………ジンって本当にニンゲン?」

「ふふ」


 抱き締める。吸い込む。戦いは終わった。


「まず栄養を摂りましょう。失った血を」

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