第270話 ありったけ最大威力の鏃
人が来た。
重装兵だった。恐らくは飛ばされないようにと超重量の盾を構えた、ニンゲンの隊。騎士団だろう。
ようやく追いついた? 違う。
ドラゴンに見付からない距離に待機していなければならなかった彼らだ。私達がドラゴンと開戦しなければここまで来れなかった彼らだ。
ドラゴンを飛ばせてはならない。ドラゴンは賢い。一度に大量のヒト種が来たら、飛んで逃げる可能性がある。何故なら人類は、彼らと『同じ立場』で強いから。自然界で公正に、生存競争をしている相手だから。
まずは少数で行き、この場で戦うことを選択させなければならない。
私達との戦闘に集中させて、その間に彼らで包囲するのだ。
大口を開けて、彼らは叫んでいるらしい。恐らくは『突撃』と。ドラゴンを囲むように、100人ほど。
尚更、私はドラゴンを飛ばせてはならない。
小石を生成したい。けれどその暇が無い。今の私は、風の玉でドラゴンを押さえ付けるのに全ての力を使っている。
耳から血が噴き出した。
エルフの戦士達の攻撃も始まった。散っていた方方から、魔法が飛んできている。
けれど、ドラゴンの鱗を破る威力ではない。
恐らくこれが今の限界なのだ。ドラゴンにダメージを与えられる強力な戦士はもう、居ない。
だけど。
これが今の最善で。最大戦力で。
作戦は上手く行っているのだろう。
たとえ、負けて全滅することになるとしても。これ以上勝率の高い戦法は、無い。この作戦をするしかないのだ。
ドラゴンが暴れる。騎士団を蹴散らし、私の風を裂いていく。
駄目だ。ドラゴンのヘイトをこちらに向けなければ。
「うっ!」
ドッ。
下方に衝撃。ああ、着地したのか。駄目だ。受け身の体勢を取っていなかった。両足がバキバキに折れる。けれど、ルフが支えてくれたようだ。腰骨までは折れていない。
ありがたい。
「治癒をっ!」
「要らないわ! あなたも突撃して!!」
今は痛みを感じない。
首元に口を当ててくれて、ルフの言葉は分かった。だから叫ぶ。今、私の治療などどうでも良い。ルフはすぐに立ち上がり、ドラゴンの方へ走っていった。
魔法は止めない。このまま、別の魔法を使え。私ならできる。魔力はまだある。一旦の拘束には、成功している。騎士団が上手く、ドラゴンのリソースを削ってくれている。
「加圧!」
小石を。
尖らせて。
回転させて。
魔力爆弾を。
「射撃っ!!」
ヒュン。
全力の射撃は、ドラゴンの左の翼を貫いた。
吼え猛るドラゴン。地響き。視界が揺れる。
けれど、ダメージを与えられた。私を睨む。縦長の瞳孔。狂乱の瞳。
「ブレスっ!!」
誰かの叫びは聴こえない。けれど、ドラゴンの行動はもう見えている。
私の前方に居た騎士団員が白く弾け飛んだ。ファイアードラゴンの代名詞が三度襲い来る。
風でドラゴンを抑えながら。射撃をしながら。
どうにか防御を――
「フォルトゥナぁぁあ!!」
炎は。
私の前方数メートル地点で二股に分かれて直撃を回避した。
ジンが戻ってきて、ブレスを斬り裂いている。
頭からも出血している。防具は殆ど破損している。剣はドラゴンの前脚に刺さったまま。黒銀の手袋は破けている。つまり、ほぼ素手で。
銀色に輝く光が見えた。
「姉ちゃん! 今だ!!」
聴こえない。けれど、背中で語っていた。
左翼を使えない今。風を解いても飛べない。隙がある。
「…………!」
魔界エルフ直伝。
鉄塊疑似生成。
形は、鏃。たったひとつ。
ありったけ、残りの魔力を流し込む。固く。重く。鋭く。強く!
最大威力。最高速度。
今出せる全て。
ブレスを終えた後隙に。
「射撃…………っ!」




