第269話 何もかも出し尽くす戦い
ドッ。
地面が無くなった。必死に、探知魔法で状況を把握する。
どうやらドラゴンは地面を抉りながら、その尻尾で私達の防御ごと空中へ打ち上げたらしい。
体勢を。早く。整えろ。方向を。
「ブレス!」
誰かが何か叫んだ気がする。ブレス。ブレスだ。また、あの破壊力を伴った炎の津波が来る。そうか。打ち上げて身動きを取れなくしてから、焼き払うつもりだ。
「るゔっ!」
「――!」
ルフ、と叫んだつもりだけど。伝わっているか。ふたりで球を作らないと、熱を防げない。
ドカン。
何故、ここまで衝撃があるのか。ドラゴンの行動ひとつひとつで、私達は容易く吹き飛ばされる。
離れてはいけない。風を。ドラゴンをこの場に留めておかなければ。
「……ぇちゃん! エル――ゃん!」
「ぅ…………っ!」
私達は球の中に居る。だから、バラバラにはなっていない。ドラゴンのブレスと私の風に挟まれて、上へ飛んでいく球の中で、ジンが私の肩を掴んで揺らした。
「…………げほっ! ……だ、大丈夫よ。耳が、よく聴こえないの。ルフは?」
「…………! …………!」
駄目だ。3人で意思疎通ができないといけないのに。
ジンはまだ傷も浅く、戦えそうだ。ルフは。
「……あれ?」
「良かった。聴こえますか? 局所的に治癒魔法を掛けました。右の鼓膜はまだ破れていないようで安心しました」
自由落下が始まる。
束の間の、作戦会議。
「私はまだ少しは動けます。魔臓加圧を全開にすれば、あと2発はドラゴンの攻撃を弾けるでしょう」
「…………良いわ。私も攻撃する。氷柱は溶かされるから、小石ね。あの鱗を穿つ」
「俺の鉄剣と同じくらいの硬さだ。いける?」
「ええ。そんなに多くは撃てないけど。可能よ」
誰も、リタイアを言い出さない。誰も、お互いに休めと言わない。
当然だ。ここは、絶対、引けない。逃げない。
全員まだ、五体満足だ。
私達はまだ戦える。
「飛ぶつもりだ! こっちへ来る!」
「抑える……!」
飛ばせてはいけない。この場に縫い留めるのが私達の役目。
風よ。
そう。咄嗟に出るのはやっぱり、一番慣れ親しんだ風魔法。
何もかもを出し尽くせ。
風の塊を、ぶつける。飛ばせないように。
「…………駄目っ!」
「続けて!」
強すぎる。私の全力が。ドラゴンに効かない。
ジンが、私達の球から飛び出した。フォルトゥナで穴を開けたのだ。地面へ向かって急降下。
「ああああああっ!」
その鉄剣をドラゴンの脚に突き刺して、地面に縫い付けた。
「!!」
直後に吹き飛ばされるジン。けれど、一瞬、飛ぶのを止められた。
「ふーーっ!」
もっと、魔力を。もっと風を。
私は六強の三、エルフィナ・エーデルワイスの娘だ。
ドラゴンの注意を引く?
殺せ。私が殺すんだ。
こいつは私の人生にとって必ず超えなければならないものだ。
ここで、ドラゴンの口がこちらへ開いた。
咆哮だ。殆ど聴こえない。けれど、響いてくる。歯を食いしばって耐える。
怒りが。憎しみが。私達へ向けられている。
望む所だ。




