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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第11章:実力を示す戦い
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第266話 殺すしかない狂ったメス

 一昨年の時は、群れだった為に撃退した。

 正確には、群れに属するドラゴンだった。ファイアードラゴンのオス。


 今回のドラゴンも、ファイアードラゴンだという。群れの可能性が高い。1頭だからといって、『はぐれ』とは限らない。


「いや。今回は討伐だ」

「どうして?」


 老戦士がそう言う。はぐれだと断定している。


「去年の個体の『つがい』だ。オスをやられて凶暴になっている。話が通じない。殺すしかない」

「話?」

「勿論、言葉での意思疎通って意味じゃない。元々戦力に差のあるドラゴンと俺達は、『ここまでやるから魔界へ帰れ』という意思を、戦闘を通じて伝えているようなものだった。ある程度の被害を受けて、ドラゴン側にもある程度の休息をやる。撃退の場合、ドラゴンはニンゲン界の事情を察して『帰ってくれてる』って訳だ」

「そんなことが……」


 ドラゴンにもオスメスがあり、性差がある。考えれば当然だけど。


「だが、そんな暗黙の了解を、メスが弁えていることはない。メス1頭での侵入は、群れ個体であろうと殺すしかない。それで過去、群れに報復されたこともない。大抵の場合、群れでも制御できない『狂ったメス』だからだ」

「…………!」


 狂ったメス。

 撃退ではなく、討伐。


「それは、報復ではないの?」

「そうだな。自分のオスをやられたことの報復だろう。だが、群れ全体がそのメスに協力はしていない。何故なら去年のオス撃退も、これまで通りの暗黙の了解の範疇だからだ」

「…………オスをやられたって、撃退なのでしょう?」

「メスの目には、ニンゲン界に負けたオスと映ったのかもしれん。ともあれ、狂うドラゴンは手強い。その分、見付けるのは容易い筈だ。気を付けて行け」


 老戦士はそう言ったけれど。ルードは、まだメスで狂うドラゴンだということは確定していないと言っていた。老戦士の長年の勘なのだろうけれど、私達としてはどちらでも大差無い。初めてのドラゴン退治だから。やるだけのことをやるだけ。


「行きましょう」


 出発だ。






◇◇◇






「……最初は、ただのドラゴン討伐だと思っていたけれど。現地へ着くと、色々と新しい情報が聞けるわね」


 道中、ルフに話し掛ける。これまでの話を整理するためだ。


「ドラゴンとヒトとの暗黙の了解は、お互いが高い知能と社会性を有するから生まれたものでしょう。『この辺りを落とし所にしよう』と。なるほど。ドラゴンとの戦いが狩りではなく戦争と言われる所以はこれですね」

「社会性」

「つまりは、戦士同士。男同士の取り決めです。社会は男社会ですから」

「……そうね。それ、10年以上前に巨大森であなたから教わったものね」

「覚えていましたか。ジェンダーの話ですね。ドラゴンにとっても、巣から出て、敵と戦うのはオスの役割(ジェンダー)です」

「でも今回は、メスが1頭で来ている」

「はい。それが事実なら、社会的な取り決めも無視され、意味をなさないでしょう。メスにとっては、オスの仕事や地位や関係性など全くどうでも良いのです。夫を失った女が狂い、敵地に単身復讐に来た。……殺すしか無いのです」


 ドラゴンはとても賢く知能が高い。ヒト種とは進化の樹形図が異なるから、ヒトとはまた別の賢さだけれど。

 けれど、ある程度の社会性を有して、ヒト種ともある程度の意思疎通が可能だ。


 ただ、私達とは根本的に異なる種。どこまでが許されて、何が『逆鱗』なのか。それは分からない。


 これまでの長い年月で積み重ねられてきたドラゴンへの対策がものをいう。






◇◇◇






「止まれ。この先の樹に爪痕がある。近いぞ」

「!」


 数日、捜索して。

 先導者のルードが、早速ドラゴンの痕跡を見付けた。


 静かに時が流れる、冷たい森の中で。

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