第265話 久々に聞く男女の差
私は、私達のできる魔法や技術を彼らに話した。
それを中心に、作戦が立案される。
「良いの? 実際に披露しなくても」
「大規模、高密度の魔法はドラゴンに勘付かれる。それに、俺達はエルフだ。あんたは嘘を吐きにわざわざこんなニンゲン界の果てまで来ない。だろ」
洞窟エルフ達は、普段は境界線に沿って等間隔で配置し、ドラゴン等の侵入を監視している。
ドラゴンが越境してきた場合、速やかに配置を変更する。
ドラゴン側も、エルフの感知魔法を察知した瞬間にステルスを開始する。そのタイミングで、エルフ達はドラゴンの位置情報を失ってしまう。
そのリスクを背負ってでも、エルフ達は普段の監視をしなければならない。『ドラゴンがどこに居るか分からない』よりも、『ドラゴンが居るかどうか分からない』方が遥かに危険だからだ。
それからは、ニンゲン界でのドラゴン捜索になる。
ドラゴンに見付からないよう、『魔法を使わずに』。
「正確には、魔力を漏らさずに、ね」
「できるか? 俺が先導者をする。騎士団から隠密に長けた者を数名フォローに付ける」
「できるわ。ドラゴンのおおよその位置は?」
「…………このエリアだ」
会議はスムーズに行われた。私達を中心に、レイゼンガルドが補佐に付いて。騎士団はそれらをサポート。
ただ、それはドラゴンを発見するまでのことだ。
ルードが地図に、円を描く。消失した魔力反応の位置とこれまでの捜索情報から割り出した、ドラゴンが居る可能性の高いエリア。
それでもまだ、広大だ。全て見て回るには何日掛かるか。
「では早速向かいましょう。ジン。行ける?」
「うん。問題ないよ」
早い方が良い。
「ちょっと待ってくれ。諸々、団長に説明してくるから。せめて明日にしてくれ」
「………分かったわ」
騎士団の人達は、動きが遅いように見えた。けれど仕方ない。彼らはニンゲンだから、エルフ同士の、無条件の信頼のようなものが無い。まだ、私達の実力を疑っている可能性がある。それに、山道を行くのにも時間が掛かる。
「……モナやミルドレッドがどのように戦ったか、訊かないのか」
「彼女達とは、戦い方が違うでしょう?」
騎士団を見送って。ルードが訊ねてきた。
「モナは、お前のことを気にしていたぞ。敵愾心があった」
「会ったことも無いのに?」
「……六強候補として、だろうな。お前は色々と有名だ」
「私は全く気にしていないのよ。目指してもいないし。どうでも良いわ」
「…………そうか。モナと違って女らしいな。珍しい」
「それ、どういうこと?」
「肩書や周りの評価を気にせず自分の目的のみを追うことは冒険者らしいと言える。だが、自分の富や名誉に一切興味が無いのは、『良い男と居る』女の特徴だ。そして、そんな女が冒険者をやるのは珍しい。A級冒険者をやるような女は、姿だけ女で中身が男だからな」
「………………」
久々に、男女論を聞いた。そうか。本気で冒険者をやっていると、そもそも性差別なんてありえない。
そして。ルードの発言が差別だとも思わない。
「ルード。あなたは『こんなところまで来る女の冒険者』を見ているのね」
「ふたりもな。モナは完全に冒険者だった。目を輝かせながらドラゴンと踊っていた。師匠を超える、六強に入る、魔界へ行く。……男のように夢を語っていた」
「私だって夢は語るわよ。その為にドラゴン退治が必要なんだから」
「そうだな。モナの方があれもこれもと欲張りだった」
「面白そうね。いつか会って話をしてみたいわ。ミルドレッドは?」
「……ミルドレッドは、俺達の前では恐らくまだ底を見せていなかった。とんでもない剣士が隣に居たからかもしれないがな。見る限りでは、『女』のまま、冒険をしていた。まるで、そこが街で、遠くまで買い物でもしにきたかのように」
「…………戦士じゃないのね」
「分からん。あんなニンゲンは見たことが無い。ふわふわと、世界から浮いているようなパーティだった」
「ふうん」
六化六強には、確かに興味が無い。そして。
良い男と居るというのも事実ね。




