第260話 揉めている面倒な交渉
冷たい。〈カロル〉の上からでも冷気が伝わってくる。魔法がなければ一体どれほど寒いのか。流石に、人類が生活できる範囲外だと思う。
それを無理矢理、魔法を使って進む。
「離れてはいけませんよ。必ず固まって行動します。自由に探索したい気持ちは分かりますが、ダンジョン攻略に於いてはマッピングは必要不可欠です」
ここは、ベテラン冒険者のルフに従って進む。洞窟はやはり迷路のように枝分かれしていて、気を抜けばすぐにはぐれてしまいそうだ。ルフの声色が深刻だったから、私とジンはこくこくと真面目に頷く。
「……まあ、この洞窟には珍しい植物も動物も鉱物も無さそうなので、探索のしがいがあるかと言われれば疑問ですが」
「ドラゴンの棲家になっている可能性は?」
「なんとも言えません。私だって、ドラゴンのことは分かりませんから」
「じゃあ、探索のしがいはあるわね」
「…………全く」
ようやくルフの表情が弛んでくれた。
確かに緊張感はある。いつドラゴンと出くわすか。けれど、冒険は楽しまなければならない。
私はそう思っている。
◇◇◇
「ちょっと待ってください。人が居ます」
「!」
しばらく進んだところで。ルフが待ったをかけた。彼女の探知範囲に、人型の生物が反応したのだ。
「洞窟のエルフかしら」
「…………そのようです。やはり、この洞窟はレイゼンガルドに繋がっていたのでしょう」
「エルフの洞窟……」
視界の方も、光が差し込んで来ていた。洞窟の奥深くではなく、別の出入口へと進んでいたようだ。
やがて巨大なホールのような場所へと出た。
天井の隙間から光が差し込んでいる、岩を球体にくり抜いたような場所。
「何者だ」
「!」
ガチャリ。
剣と槍が、私達の胸先に突き付けられた。ふたり。反応できなかった。いや、感知できなかった。
「下がれ」
驚いた。ジンがいつの間にか鉄剣を抜いていて、彼らを威嚇しながら私達の前へ出ていた。
ニンゲンだ。魔力を持たないから感知に引っ掛かりにくい。それだけじゃない。気配を殺す術を身に付けている。
「ニンゲンの男と、女のエルフがふたり? なんだお前ら。どうやって中からやってきた」
彼らはふたり共、国境騎士団の甲冑を着ている。騎士団もレイゼンガルドとコンタクトを取っていたのか。
「私達は冒険者ギルドパーティよ。森に入る許可は貰っているわ。ドラゴン退治の協力をしたいの」
「…………また面倒事か」
「どういうこと?」
敵意がないことが伝わったらしく、彼らは武器を下ろしてくれた。それから、溜め息を吐いてホールの中心を指差した。
「俺達騎士団もレイゼンガルドに協力を要請する為にここで交渉を続けている所だ。前回も前々回も、ドラゴンの発見と追跡はレイゼンガルドの活躍あってこそだったからな」
その先には、騎士団の人達と向かい合っているエルフの男性が居た。喧騒から、何か揉めているようだと分かる。
「あんたもエルフで、協力したいってならあんたからもなんとか言ってやってくれないか。何故か今回に限って、レイゼンガルド一族が協力してくれないんだ」
「…………なるほど」
何か事情があるのだろう。まずは話を聞かないと。




