第259話 わくわくする初めての攻略
凶暴な野生動物や魔物との遭遇戦闘は、実は殆ど無い。
小説や遊戯に登場する『敵キャラクター』としての魔物は、基本的に人を見たらどれだけ傷付いても死ぬまで襲い掛かってくるものだけど、それは実際の自然界ではありえない。
生き物は、危険を回避するものだからだ。『人類』という最強級の生物を見掛けたのなら、原則として逃げるのが動物である。仕方なく戦闘になったとしても、勝てないと判断したのならやはり逃走を試みるものだ。
にも関わらず、死ぬまで戦う場合、そうしなければならない事情があるか、その事実が分からないか、分かった上で戦闘を選んでいるか。
例として、人類の脅威度を知らない場合。
人類に対して勝てると思っている場合。
逃げ場の無い場合。
合理を無視して完全に感情で憎んでいる場合。
足止め、又は刺し違えることで他の仲間を逃がす場合。
この辺りが考えられる。
「ここはロッキーカメレオンの巣だったのね。卵がある。逃げ場が無かったのね」
ロッキーカメレオンは死ぬまで襲い掛かってきた。家族、群れを守る為に必死だったのだ。
岩場の影に、洞窟があった。そこにロッキーカメレオンの幼体と卵、そして妊娠しているメスが数体居た。
「言葉さえ通じれば交渉ができたかもしれませんね。しかし、彼らはリザードマンにはなれなかった」
オスは全て私達が殺した。放っておいてもこのメスと幼体は死に絶えるだろう。
私達を見ると、彼女達は抱えるだけの子供と持てるだけの卵を担いで、洞窟から出てどこかへ走り去っていった。
「…………死ぬわよね」
「他の群れに保護されれば分かりませんが……。決死ですね」
後味良くは無い。
だけど。
こっちも殺される訳にはいかないし、見逃して後でステルスの不意打ちに怯えたくもない。
私達だって、『自然界の生き物』だ。
「この洞窟、もっと奥に続いてるよ。ロッキーカメレオンの巣だったのは入口の方だけだ」
「…………ふむ」
私達が探しているレイゼンガルド一族は、洞窟のエルフだ。エルックリン山脈の洞窟となれば、この先に通じている可能性はあるか。
「少し調べてみましょうか」
「分かりました」
「了解」
火の魔法で明かりは問題ない。私達は洞窟に入ることにした。
「初めての『ダンジョン』攻略ですね」
「ああ。そういう言い方をするのね」
「俺わくわくしてきた!」
レイゼンガルドは元々、大氷壁を守っていた人類の要だ。つまり、エーデルワイスと同じ。
ドラゴン退治をするには、彼らと協力したほうが良い。まずは接触しなければならない。
国境騎士団とも力を合わせて万全の体制で臨むべきだと私は考えている。
まだドラゴンを見たことも無いけれど。
絶対に舐めて掛かってはいけないと考えている。
「では行きましょう。最大限の警戒を」
「了解!」
ジン。
わくわくしているのは、あなただけではないわよ。




