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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第11章:実力を示す戦い
255/300

第255話 繰り返す清々しい別れ

 彼らは対亜人用にきちんと拘束武器を持っている訳でもなかった。そもそも捕らえられはしないと判断していたのだ。

 通常の警棒と手錠で向かってきた。対人戦闘を想定するなら大したものだった。だけど。


 私は魔法使いだ。


「ぐ…………!」


 ニンゲンでは、ただの風魔法をどうすることもできない。全員を吹き飛ばしておしまい。

 この報告が、手土産となるだろう。


「エルルさん」

「?」


 倒れている彼らを置いて、私達は階段を降りる。この道場にも、もう来ることは無いだろう。沢山の思い出があるけれど、それはもう私の記憶の中にある。


「魔界はニンゲン界の何倍も広い。だからニンゲン界を旅するよりも、確率は低い」


 ペルソナが私に話し掛けてきた。ジンではなく。

 このパーティのリーダーは私なのだと、理解してくれているからだ。


「だが、俺達冒険者はこう言うのだ! ()()()()()()()()()()()()!」

「…………ふふっ。ええ。また会いましょう」


 ペルソナは最後まで元気で、うるさい。でもそれが彼の良い所だ。


「エルルはん。ルフはん」

「ええ」


 レイン。

 本名はエルレインだ。私はレインという名のニンゲンの冒険者をひとり知っているから、少しややこしい。


「エルファレムに寄りはることがあれば、最初は警戒されるやろうけど、擬似生成魔法(リクリエイト)見せたらええ。便宜図ってくれる筈やわ」

「そうなの? 分かったわ。ありがとう」

「あと、うちの家族にもし会うたら『男ができた』言うてくれまへんか? おかんが安心しはるわ」

「承ったわ」


 魔界エルフの棲処、大森林エルファレム。いずれ行くことにはなるだろう。私はこの世界を踏破するつもりなのだから。


 ふたりをまず見送って。


「カナカナはこれからイレンツに行くの?」

「まあな。その後のことは考えてねえが、久々の『自由』だ。好きに生きるさ」


 背中に魔導剣を担ぐカナカナ。彼女も、ここから新たな旅が始まる。彼女とシャラーラの対談も興味があるけれど。今は私達も急がなければならない。


「黒銀の鉱床……ヴァルキリー鉱山はクリューソス大陸にある。レナリア大陸での用事が終わったら行けよ。そこであたしとペルソナの名を出せ。お前の魔導剣を打って貰え。ジン」

「!」


 ジンは。

 皆伝したとはいえ、まだ魔導剣を持っていない。これからも普通の鉄剣で戦うことになる。

 黒銀はニンゲン界どころか魔界でも流通していない。ヴァルキリー一族秘伝の鉱物だ。手に入れるには、そこへ行くしかない。


「うん。良いかな、エル姉ちゃん」

「勿論。次はそこへ行きましょう。シャラーラへの土産話も増えるわ」


 クリューソス大陸。当然、今初めて聞く。ニンゲン界では習わないし、そんな地図は無い。場所も行き方も分からない。ここでは調べようが無い。

 それを見付けるのも、冒険者の楽しみだ。


「カナカナの故郷ね。楽しみだわ」

「なら、あたしは逆にイレンツの次はオルスにでも行くかな。巨大森って、ニンゲンのあたしでも入れるのか?」

「ええ。以前はニンゲンは駄目だったけれど、今は改革したみたいよ。男性は駄目なままだけれど」

「面白そうだ。あたしの魔導術が、六強の三に通用するかどうか」

「母と戦う気?」

「機会があればな」

「…………止めないけど」


 カナカナもまだまだ若い。母とはどんな会話になるのだろう。


「んじゃ、ぼちぼち行くぜ」

「ええ。いつかまた、どこかで会いましょう」

「ははっ。早速使ってるな。冒険者の標語だ。――ああ。またな」


 何度でも繰り返す、出会いと別れ。清々しい気持ちだ。


「私達も行きましょうか」

「はい。ジン」

「うん。汽車で行きたいところだけど、警察が張ってると思う。徒歩になるね。まずは北東。ペルソナさん達や師匠の向かった道からは外して行こうと思う。こっち」

「頼もしいわね」


 アルニアでの用事は全て終わった。ようやく、エルックリンへ向けて出発だ。


 エルル・アーテルフェイス。

 23歳の冬。

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