第250話 エルフの姫と男らしい象徴【第10章最終話】
さらに1年が経った。
ペルソナは結局、ジンの修行を最後まで見てくれた。パロットに待機させている仲間は良いのだろうか。私が心配することではないのだけれど。
「はぁ……はぁ……」
この日。遂に。
「……『合格』だ。ジン。もうあたしから教えることは無くなったぜ」
「…………!」
1日の終りに毎度行うペルソナとの試合で。
初めて、ペルソナに勝利した。
私が23歳になったばかりの、冬。ジンは20歳直前で。
カナカナによる魔導術の修行が終わった。
◆◆◆
ウリスマの山を登る。あの広場からさらに上の方へは、行ったことはなかった。
カナカナの話によると、この辺りに……。
「湯けむりが見えたわ。ここね。温泉!」
私達は3人で、ジンの『ご褒美』の為に天然温泉へとやってきた。カナカナとレインしかしらない場所らしく、彼女達が簡易的に設置した小屋くらいしか無い。
温泉は彼女達の手で整備されていて、3人で入るのに不都合のないものだった。これは嬉しい。冬の雪山に、こんな暖かい温泉があるなんて。
「うおっ。マジで熱い」
「へえ、不思議ね」
「街から結構離れていますから、本当に秘湯ですね」
広さも深さも丁度良い。私とルフで、ジンを挟むように座る。私がジンの左側だ。いつもの位置。
「おめでとうジン。これで立派な魔導士ね」
「ありがとう。やっと、スタートラインだ。俺はニンゲンだから。ここまでやらないと、姉ちゃん達に追い付けないんだよな」
「本当に良く頑張りました。今年のドラゴン討伐には間に合いそうですね。エルフィナ様からの便りもそろそろでしょう。全てが上手く行っています」
雑談。他愛のない会話。
心臓はとっくに跳ねている。
「出発は、すぐ?」
「そうですね。まずはエルックリンへ向かいましょう。明日にでも」
「いよいよか……」
タオルで隠しているけれど。
隠しきれていない。
私も、この人も。
ジンの視線が強い。私へ行ったりルフへ行ったり。
「エルル」
「何?」
「湯船に、タオルを浸けてはいけませんよ。マナー違反です」
「えっ。そうなのね……」
以前の私なら。
彼の前で裸になることに、恥じらいは無かった。彼が、視線を逸らしてくれてもいた。
けど、もう違う。
「震えていますよ。ジン」
「う……。そりゃ、緊張するって」
「あなたはまず、女の身体に慣れましょうか。私の貧相な身体では効果は薄いかもしれませんが」
ルフと目を合わせる。頷く。意を決して、タオルを取る。
「!」
「目を、逸らさないでください。ジン。ふたりとも『あなたの女』ですよ」
「う…………!」
恥ずかしい。なんてものじゃない。
急激に、自分の顔が赤くなっていくのが分かる。ルフ。
ルフを見ると。彼女も緊張しているようだった。それを見て、少しだけ冷静になる。
「もっと近付いて。エルル」
「……ええ……!」
私も、彼の股間に釘付けだった。まだタオル1枚に覆われているけれど。その形は。大きさは。はっきりと。
けれど、『あの時』や『あの時』のような嫌悪感は、今は無い。
興味。好奇心と、期待感のようなものが羞恥心に混じった感情。
「腕を回して。ずっと手が空いてますよジン。さあ」
「ちょ……。あのさ、俺いつも、ふたりに触れないんだよ」
「どうして?」
「……どこ触ったら良いか。触って良いか分からないんだよ。だってどこを触っても、駄目な気がして」
「駄目な所などありませんよ。ねえエルル」
「………………そう、ね。私も凄く恥ずかしいけれど。あのねジン。私達も、あなたを触るのよ?」
ざばり。
手が固まっているジンに痺れを切らして、ルフが立ち上がって彼の正面に立った。
「ルフ姉ちゃ」
「あなたは、とても男らしくないですね。ヒューイの息子とは思えません。頭の中ではいつも、私達の裸と触れ合うことを想って自分を慰めているのに。本物を前にして、本人から許可まで得ているのに」
「………………だって。怪我とか、させちゃったらって。思っちゃうんだ」
「…………」
守りたい。
そう、彼は常々語っている。
この人の中では、私達は『弱い』のだ。亜人ということは関係なく。
私もルフも、彼に勝っているというのに。
優しくて、良い人なのだろう。
「…………では、私達は私達で楽しみますか。エルル」
「えっ?」
ルフが、彼の股間を隠すタオルを剥ぎ取った。
「ちょ……!」
「動かないでください。ジンは動いてはいけません。良いですね」
「…………!」
露わになる。それが。
とんでもなく、男らしい象徴が。
「エルル。大丈夫ですか?」
「……ええ。いざ見てみたら……。大丈夫そう。興味の方が強くて。嫌悪や拒否感は意外と無いわ」
思い返せば。
私はオルスでは、『それ』をよく見ていなかったのだ。これまでは、イメージで拒否していたのだ。
それが、やっと今、分かった。
「エルル。『これ』の扱い方を教えます。こちらに」
「ええ」
これが終われば、ジンは二十歳となる。
大詰めだ。




