表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
249/300

第249話 真面目で冷静で大変な思春期

「レイン! 水着の君も綺麗だ! 結婚してくれ!」

「………………」

「あああ――あれ? レイン?」

「…………ペル君。たまには、真面目な話もしよか」

「お、おう……?」


 そんな会話が聴こえてきたのが、夕方に差し掛かってきた頃。レインが、ペルソナの手を引いて人気の無い丘へ向かっていった。


 私は湖から逃げるように上がって。


 膝を抱えて、湖で遊ぶ人々をぼやっと眺めている。


「疲れたか?」

「カナカナ……」


 ひやりと冷たい感触。カナカナが、観光客相手の売店で果汁飲料を買ってきてくれたらしい。受け取る。


「冒険者には、真面目な奴と適度に抜く奴が居る」

「私は前者ね」

「早死にするのは、前者だ」

「…………そう」


 そう見えているのだろう。カナカナから私は。


「最初にレナリア大陸へ行くと言ったな」

「ええ」

「あそこも『真面目ちゃん』ばっかだからなあ」

「そうなの?」

「昔ながらの規律や文化を特に重んじる。建物も家系も法律も。ドラゴニュートってのはそういう種族だ。『保守的』って奴だな。レナリアって名前もそうだ。大昔の竜王から取って付けてる」

「……なるほど。保守的。私達は歓迎されなさそうね」

「普通はな。だが、あんたらにはエーデルワイスが後ろ盾に付いてる。まあ、なんとかなるだろ」


 まだ、A級にもなれていない。なのにもう、その先の話。

 実は結構好きだ。不確定な未来の話。夢や願望の話。


「行ったことあるの?」

「若い頃に一度だけな。ヴァルキリー家と親交が深い貴族が居る国があってな。当時のあたしじゃ、奴らと戦っても倒せなかったと思う。ドラゴニュートは『最強』と謳われる種族だ。使者として行くにしても、最大限の警戒はするべきだぜ」

「……分かったわ」

「『早死に』すんなよ。エルル」

「ええ」






◆◆◆






 それからは通常通り、また修行の日々が始まった。良い息抜きになったと思う。ジンも一層気合が入っているみたいで。

 ペルソナは、ジンの修行を正式に見てくれるようになった。タイムリミットはあるみたいだけど、レインがどの道ジンの修行が終わるまで離れられないから。


「何かありましたね」

「うっ……」


 いつものように修行の見学をしていると。ルフがじとりと見詰めてきた。

 通常通り、の筈なのに。


「分かる?」

「分かりやす過ぎです。ずっと目でジンを追っているでしょう。そして、目が合いそうになると逸らす。気付いていませんか? なら無意識ですね」

「………………」

「これまで、エルルはそんなことありませんでした。ジンに見られていても気にしていなかったし、エルルも特にジンを気にして見てはいませんでした」

「………………」

「……『恥じらい』が見えます。心境の変化がありましたね」

「…………ええ。この前の、湖水浴から。水着を褒められて……」

「それは水着ではありません。エルルを褒められたのです」

「…………そう、思ってしまって。だって、あの時私、凄い格好だったわよ」

「露出こそ控えめでしたが、ラインはしっかり出ているようなのを選びましたからね」

「どうして」

「要するに、『男にエロい目で見られている自覚』を促す為です。効果は抜群だったようですね」

「………………ルフには勝てないわね」


 自覚した。

 させられた。

 私は――男性に『見られる』のだ。


 とても恥ずかしい。

 こんな気持ちは初めてだ。


「でもジン以外は不快だわ」

「それも自覚できて何よりです。シャラーラの全裸がキッカケでしょうか。とにかく、エルルもこれで『思春期』ですね」

「………………」


 無意識。

 気が付けば、視界にジンが居る。こんなの今まで無かった。


 恥ずかしい。

 ちらりと、一瞬だけ、彼がこちらを見た。


 顔が、急激に熱くなる。


「………………胸が痛いのよ」

「はい」

「……もしかして、皆『これ』を、経験しているの?」

「多くは」


 膝を抱える力が一層強くなる。自分自身を抱き締めるように。

 彼のことばかり考えてしまう。その横顔。手。仕草。表情。汗。声。腕。


「…………大変過ぎるわ。『恋愛』。思うように、心と身体が動かない」

「成人してからの思春期ですね。もう冷静になってしまっています」

「冷静じゃ、ないわよ……」


 膝に顔を沈める。


 視界に入る彼の全てが、苦しい。

 けど、目を逸らしたくない。


 見ているのを気付いて欲しいけれど。

 気付かれたくない。


 大変だ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ