表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
248/300

第248話 繰り返し響く言葉

 気泡の魔法は、アラボレアで形にした。

 魔力は、水中でも問題なく流れてくれた。


「…………」


 私は泳げない。けれど、パニックにもならなかった。空気で頭を覆って、冷静に水の流れを覚える。


 巨大な湖。湖底まで降りるととても冷たい。静かな湖の底。泳ぐ魚は小さい。


「…………」


 擬似生成(リクリエイト)で鉄を作って錘にしている。ゆらゆらと湖底付近を漂う。


 気持ちが良い。初めて知った。水遊びも良いものだ。


 しばらく脱力して浮かんでいると、激しい水の流れを感じた。見ると、ジンが鬼の形相でこちらへ向かってきていた。

 息を止めたまま、数十メートルを潜ってきたのだ。

 きっと心配してくれたのだろう。顔が赤いのは、息が切れそうなのだ。


 私は擬似生成(リクリエイト)した錘を彼の方にやって、湖底へと引き込む。鉄のロープのようなイメージだ。それを掴んで貰って。


「……!」


 手に到達して。肩を触れて。顔を包み込む。


 気泡の魔法。


「ぶはっ! げほっ。姉ちゃん何してんの。急に居なくなっちゃって」

「ごめんなさい。潜るの楽しくなっちゃって。でも凄いわね。人は浮くから、ここまで潜るのは大変だったでしょう」


 私の魔法で彼の頭を包むふたりの気泡は繋がる。


 静かな湖底に、ふたりだけの世界が生まれる。


「……!」


 キスをした。


「…………エル姉ちゃん」

「どう? 擬似生成魔法(リクリエイト)。様になってきたでしょう。既にプログラムに組み込んで、イメージした形に変形させた状態で生成できるようになったのよ」


 寒いだろう。熱魔法(〈カロル〉)も彼に掛ける。


「…………俺はちょっと、スランプかな」

「フォルトゥナね。あれはヴァルキリーの一族でも使い手は少ないみたいね」

「けど、これから魔界へ行くには俺は絶対に覚えなきゃいけないんだ」


 錘を変形させて、ふたりを湖底に固定して繋ぐ。

 気泡はひとつ。距離が近くて、抱き着くような体勢。


「ねえ、これがあなたのモチベーションになるか分からないから相談なのだけど」

「なに?」

「……修行が完璧に終わったら、『ご褒美』って、欲しい?」

「………………エル姉ちゃんからの?」

「ええ」


 驚いた表情。けど、分かる。お互い。


「私、実はあなたのこと、あんまり知らないのよね。トヒアの作る好きな料理とか、エデンでのことなら分かるけれど」

「確かに……。俺、あんまり遊んだことってなくてさ。姉ちゃん達を見送ってからは修行しかしてない。リーリンにも道中『つまらない男っすね』って言われたなあ」

「ふふ。似た者同士よね、私達。今、初めて『遊んでいる』のよ。私達」

「うん。…………楽しい」

「ええ」

「ペルソナさんは慣れてるみたいでさ。水遊びで使うボール? 空気で膨らませて、球技みたいなことしてた。他の観光客も巻き込んで」

「凄いわね。ペルソナはコミュニケーション能力が高いのね」


 お互い。

 性格が真面目過ぎるのだろう。私は生来。ジンは、私達の為に。


「何が良い? ご褒美」

「うーん……」


 触る。逞しい身体。そう言えば、私の水着はジンにとってどう映っただろう。ルフに選んで貰ったのだけど。


「顔、まだ赤いわ」

「そりゃ、エル姉ちゃんがこんな近くに居るし」

「居るし?」

「…………水着だし」

「あ。やっぱり水着って『そう』なのね」

「……うん。恥ずかしながら……。めちゃくちゃ似合ってて。綺麗だよ」

「………………!」


 急に。

 不意に。

 自分に驚いた。


 今。

 私も顔が赤くなっている筈だ。


 熱い。


 ああ。

 冷静になれない。


「…………姉ちゃん?」

「……………………ねえ、ジン」

「うん?」


 声が震える。


 別に褒めて貰ったのは初めてという訳でもないのに。


「…………」


 急に。

 何故か。

 上がる前にもう一度くらいキスをしようと思ったのに。絶対にできなくなった。


 綺麗だよ。


 それがずっと、脳内に繰り返し響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ