第246話 きちんと決着させたい旅
「……フォルトゥナですか。知りませんでした。大気中の魔素を武器にするとは。確かに、我々亜人には原理的に不可能な技術ですね。体内の魔力に反応して拡散してしまいますから。確かにニンゲンにのみ許された技術でしょう」
勿体なかった。ルフは、ジンと私がフォルトゥナにやられるところを見れなかったのだ。あの後、調子に乗ったペルソナがカナカナとレインにボコボコにされていた。今日はもう修行は中止だ。
「だとしても、極一部でしょうね。魔導士自体が希少ですし、さらにその中の最上位クラスしか扱えない、と。……しかし、ジンも今回の修行の最終目的はこのフォルトゥナなのでしょう。彼が修得すれば頼もしい限りですね」
「ええ。それと。私も、半分ニンゲンだから、できないかしら」
「うーん。恐らく無理でしょう。ニンゲンかどうか、というより、体内魔力の有無ですから。エルルの身体には魔臓と魔腺がきちんとあります。血統はハーフですが、厳密に言うならエルルも亜人ですからね」
「…………そうよね。魔力ステルスしたって意味ないものね。諦めるしかないか」
「普通は、ニンゲンが魔法を諦めて、魔導を覚えるのですが」
「自分の持っていないものを見ると羨ましくなるのよ。性格ね」
「初見の魔法は全て覚えてきましたからね。魔導術ばかりは諦めましょう。エルルは魔界の魔法を鍛えないと」
「まあ、そうよね。魔臓加圧に、魔導術。私にできないことは、あなたやジンができる。私は私にできることを。それが、パーティというものよね」
夜の寝室。
ウリスマの夜は空気が澄んでいる。窓を見ると、雲ひとつ無い春の夜空。
「…………この世界は、本当に面白いわね。きっと魔界へ行けば、もっと面白いことがあるでしょうね」
まだまだ知らないことだらけだ。歴史に、人に、技に。
全てを知りたい。
私の夢は、旅は、まだ続いている。
「後はジン次第ですが、もうすぐでしょうね。エルフの感覚だと更に。私達は早めに、これからA級試験の座学にも力を入れましょうか」
「そうね。それが良いわ。エルフには時間があるけれど、無駄にしてはいけないわよ」
「それと。頑張った者にはご褒美が必要です」
「………………」
恐らくここだろう。私もそう思っている。きっと彼も。
きちんと決着させてから、魔界へ臨みたい。
「……ジンへのご褒美ね」
「はい」
「結局、あなたはジンの性欲処理をしていないのね」
「はい。私達の関係が進む時は、必ず3人一緒でなければならないと考えていますから」
「分かっているわ。ありがとう。今度こそ頑張るわよ」
「少しずついきましょう。エルルもジンも、それを望んでいる筈です」
「ええ。……私はジンの子を産みたいのよ。それは絶対にやりたいの。だから、私はここで、確実に克服しなければならない」
「カナカナやエルレインにも相談して良いと思いますよ。そういう話、今まで気を遣ってくれていたと思いますので」
「そうね。それも含めて思い残しの無いよう、ふたりともっとお話しないと」
私達はパーティで、恋人で、いずれ夫婦になる。
けれど、いつどうなるか分からない不安もある。
こんなに近くに居るのに、私とジンとの間の世界も思ったように上手く行かないのだ。
私の旅はまだまだ、始まったばかりにすぎないのだろう。




