第244話 頑なに強い謎の技
朝食後、ペルソナの待つ道場へ皆で向かう。
「まあ理由はなんでも良い。丁度良いから稽古付けてもらえ。親バカで悪いが、『ニンゲン界最強のニンゲン』だ」
「……!」
ガラリ。扉を開ける。
ペルソナは既に道着に着替えていて、汗をかいていた。ウォームアップも済んでいる。
緊張感が張り詰める。
「……ペルソナさん」
ジンが彼の向いに立つ。
「ああ。俺はニンゲンにして六強まで上り詰めたが、レインひとりに振り向いて貰えない。なのに君はまだ修行中の身なのにあんな綺麗なエルフさんを、ふたりも! それは許せん! だから腹いせに決闘だ!」
「…………」
「…………」
「…………」
ペルソナが高らかに決闘を宣言した。
「……そういうとこなんよねえ」
レインがぼそり。
「うん、まあ。……まあ、理由は何でも良い。ほら、てめえらこれ使え」
カナカナがふたりに竹刀を投げた。それぞれ受け取って。構える。
同じ構え。
「母よ! 魔導術は使っても良いのか!?」
「えっ。俺ニンゲンだよ?」
変なことを言った。魔導とは、対魔法の戦闘手段。つまり対魔法使い、対亜人の戦闘手段だ。相手が魔法を使わなければ発揮されない。
ニンゲン同士の戦いには発揮されない。
「……ああ。教えてやれ」
けれど、カナカナは不敵に笑っていた。
「よし! 掛かってこい!」
「……分かった」
まず、ジンが仕掛ける。単純な剣術勝負なら、体格の差でジンが有利な筈だ。
「ふんっ!」
「!?」
筈だけど。
ペルソナは、虚空を斬った。全く当たっていない。隙が出来た。罠かと疑う程の隙。勿論狙うジン。
次の瞬間。
ジンが体勢を崩してたたらを踏んだ。
「うおっ!?」
「ふんふん!!」
残った右足を刈る。すると面白いように回転。
「うはっ!」
空中で身動きが取れなくなったジンに。
「せいっ!!」
「!!」
横薙ぎ、一閃。
盛大に吹き飛び、道場の壁を突き破って境内に弾き飛ばされた。
「ジン!」
追い掛ける。彼は気絶していた。あの丈夫なジンが。
「…………なんだ、これだけ弱くともふたりの美人エルフさんに……。くそう。母よ! ジンの修行、遅れていないか!?」
私がジンの所へ着いた時、ペルソナは尚も悔しそうにしていた。
彼は強い。誰が見ても明らかだ。けれど。彼が望むのは強さではなく、ひとりの女性なのだろう。
「…………遅れてねえよ。寧ろ早い方だ。ジンがここへ来たのは14の時だぞ。生まれてからずっと魔導に触れてきたてめえと一緒にしてやるな」
「だがこれでは叩き足りない!」
「そもそも嫉妬の言い掛かりの逆恨みだろ」
「それはそうだが!」
「自覚あんのか」
何だったのだ、あれは。
最初にジンを崩した技。ジンに触れてすらいなかったのに。
何も見えなかった。何も感知できなかった。魔法ではないのは確かだ。
「…………じゃあ、ペルソナ。次は私とよ」
「!」
眠るジンをひと撫でして、立ち上がる。彼が負けたのだ。では私が仇を取らなければならないだろう。私はジンの、パーティリーダーなのだから。
それに、気になる。あの謎の技をもう一度見たい。観測したい。受けてみたい。
カナカナに効いた魔力弾は、ペルソナにも効くだろうか。試したい。
「駄目だ! 俺は女性とは戦わん!」
「はっ?」
のに。
出鼻を挫かれた。ペルソナは竹刀を置き、両手を使って胸の前で大きく✕を作った。
「どうして? 私はジンより強いわ」
「関係無い! 俺は女性とは戦わん! これは絶対だ!」
「怪我しても誰も何も言わないわよ。私は冒険者。そしてエルフ。あなたはニンゲン。私を女として扱わないで良いわよ」
「俺は! エルフさんが好きだし! 女性とは戦わん!」
「………………」
頑なに。
✕を崩さない。大声で。全く戦意を感じない。本当に戦う気が無い。話にならない。
「カナカナ」
「ああ。諦めろ。こいつはマジでこうだ。無理矢理殴りかかっても絶対に抵抗しないぞ。時間の無駄だ」
「………………」
無理らしい。ならばどうやって。
私は、『六強の六』の実力をきちんと、もっと、この目で見たいのよ。
「まあ、ペルソナよ。これじゃエルルが可哀想だ。あれだけもう一度見せてやれ。指導なら良いだろ」
「む。母が言うのなら。ではエルルさん、こちらへ」
「?」




