第243話 銀より鋭く似ている関係
「…………ふゎ」
朝。
まだ少し肌寒い。一度暖まっているルフをぎゅっと抱き締めてから、意を決して起き上がる。
「んん……。さて今日は、ペルソナの話を聞きたいわね」
「…………ん……。エルル」
「朝よルフ。おはよう」
「…………おはようございます……」
だけど、ルフにはルフが居ない。既に私は起き上がっている。ではルフは誰をぎゅっと抱き締めてから起き上がれば良いのか。
しっかり者の彼女は、そんなこと必要なく起き上がれるのだ。
「今日は早くから仕事がありますので」
「ええ。行ってらっしゃい」
町の仕事は、ふたりでそれぞれ手分けしている。主に魔法を使った力仕事が多い。私は風で。ルフは魔力強化で。それぞれの修行にもなっている。
◆◆◆
ルフを見送って、居間へ向かう。朝食だ。レインの用意する和食、どうにかこれからの冒険中にも食べられないだろうか。
「エル姉ちゃんおはよう。ルフ姉ちゃんは?」
「ルフは早くから仕事みたいなのよ。帰って来るのは夜ね」
「そうなんだ」
寝癖のままのジン。
「…………んぐ……」
「カナちゃん。顔くらい洗ってきいや」
寝癖のままのカナカナ。寝巻きがはだけていたり。
似た者師弟。
「おはようレイン! 結婚してくれ!」
「いやどす。あ、危ないから床転げたらあかんで」
「あああ……っ! えっ。あ、はい」
そして朝から元気爆発のペルソナ。
5人で食卓を囲む。
「ペルソナもレインと修行を?」
「そやね〜。カナちゃんとニンゲン界来たんが大体25年前。ペル君はこっちで産まれたんよ。ほやから、赤ちゃん時から知っとるんよ〜」
「産まれた時に一目惚れしたんだ! レイン!」
「いやどす」
「あああっ!」
「ペルソナさん落ち着いて……」
ペルソナはウリスマで産まれたのか。つまり、ニンゲン界の出身ということ。
「……父親は? これ、訊いても良いの?」
「んぁ……。いや、普通にアルニアの男だ。今は首都で働いてる。単身赴任って奴だな。ちゃんと顔出したか? ペルソナ」
「勿論! 父にはめちゃくちゃ嫌がられたけどな!」
「だろうな。声がうるせえ」
カナカナには夫が居る……って、そりゃそうか。
「ま、あたしだけ先に結婚しちまってレインには悪いと思ってるがな」
「別になんとも思わんよ〜。カナちゃん死んでからゆっくり魔界帰って婚活するつもりやし〜」
「百年後だな」
「そやね〜」
「レイン! 今すぐ俺と結婚してくれ!」
「いやどす」
「あああああっ!」
私は、ジンと目を見合わせた。
ヒューイとトヒアと、ルフに似ているかもしれないと。
「ペルソナさん。俺のパーティメンバーのルフ姉ちゃんなんだけど、俺の父親の元パーティメンバーでもあってさ」
「あああ――ん?」
「つまり、俺も、産まれた時からルフ姉ちゃんに一目惚れしてたんだ」
「ほう! 良いよな! やはり妻にするならエルフだ! そうだろ!」
「……いや。エルフかどうかとか、種族はあんま関係ないんだけど。なんだかペルソナさんとレインの関係が、俺とルフ姉ちゃんに似てるなって」
「はっ! そういうことか! よし分かった! 決闘だ! ジン! 食ったら道場に来い!」
「えっ?」
ペルソナの銀色の目が、カッと開いた。すぐさま立ち上がり、退室していった。
「…………『ごちそうさま』もしてへんし、食器も下げよらん。これは、お仕置きが必要やなあ〜」
「…………!」
レインは、たまに怖い。その普段細い目が、少し開いて光った気がした。ペルソナの銀眼よりも鋭く。




