第242話 信じられない面白い男
それは。
その年の冬が明けた頃。私が22歳になって、ジンも19歳になった直後くらい。
町の仕事が早く終わり、市場を見て回っている時。お昼時。そろそろ何か食べようかと思っていた時。
「レイン! 見付けたぞ!」
「えっ?」
後ろから声を掛けられる。強い声だ。振り返ると、男性だった。
銀髪をオールバックにしている。瞳も銀色。背丈や体格は平均的だ。だけど、相当鍛え込んでいるであろう筋肉が、その腕や脚から見て取れる。
貴族のような装飾のある騎士風の服装。腰には黒い剣。
特徴的なツリ目。
「帰ってきたぞ! さあ結婚してくれ! ――って、人違い!? ごめんなさい!」
「…………えっ」
彼は大声で求婚して、その間に私の顔を見て全てを悟り、一気に謝罪をした。
「………………ええっと。あなた、もしかしてペルソナ? カナカナやレインから聞いているわ」
「そうだ! 俺はペルソナ! 冒険者ギルド所属のA級冒険者だ! はじめましてエルフさん! 母やレインと知り合いか!?」
「…………ええ。私はエルル・アーテルフェイス。同じく冒険者よ。パーティメンバーが魔導術の修行中で、その間カナカナの道場に泊めて貰っているわ」
「なんと!」
声が大きい。リアクションが大袈裟。
ちょっと、面白い人が現れたものだ。
◆◆◆
「レイン! 結婚してくれ!」
「いやどす」
「ああああああっ!」
「久し振りやねえ、ペル君」
ペルソナは道場に着いてレインを見付けたと同時に彼女に迫り、求婚。直後に玉砕して、廊下に転がることになった。
なんだこれは。
「おう帰ってきたかクソガキ。丁度良いタイミングだ。あん? お前ひとりか」
「母よ! ただいま! 仲間は南西都市で待機してもらってる! レインを貰ってすぐ戻るつもりだからだ!」
「行きまへんけど」
「あああああっ!」
レインはずっとにこにこと柔らかい笑みを崩さずペルソナを無碍にしている。
カナカナはそれについて何も反応しない。もしかしてこれ、慣れた光景なのか。
「なんだか騒々しいですね」
「ルフ」
ふたりは道場で稽古をしていたらしい。ルフとジンもやってくる。
「む! 男! 君が母の新しい弟子か! 俺がヴァルキリー魔導術正統後継者だ! よろしく!」
彼を見たペルソナが、悶絶から一瞬で立ち上がり、ジンと相対した。
ふたりの男性。体格はジンの方が少し大きい。
「あー。ええっと。師匠の息子さんか。はじめまして。ジンです」
「ジン! いくつだ!?」
「19」
「そうか! 俺は23だ! 俺の方が年上だな!」
ふたりは握手をした。
「…………23? カナカナあなた、そう言えばいくつなの? 私、見た目で30代くらいだと思っていたわ」
「合ってるぞ? あたしは今年で40、今はまだ39だ」
「えっ」
もう、なんか。色々。
「あ、うちは今年で86歳になるんよ〜。エルフでも若い方なんよ〜?」
「好きだレイン! 結婚してくれ!」
「いやどす」
「ああああああっ!」
今日だけで3度、いや4度? プロポーズを見た。これはまた、本当に面白い人が来たものだ。
「ジンも初めて会うのね」
「うん。俺が初めてここへ来た5年前にはもう冒険に出てたんじゃないかな。師匠からもあんまり話は聞いたことなくて。六強だってことも最近知ったんだ」
六強。
母と同列に語られる強さということだ。この人が。
色んな意味で信じられない。




