表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第1章:楽園と地獄の狭間で
24/300

第24話 夏の終わりと覚悟の親子

 長かった夏が終わる。


「本日付けで、退職いたします」

「えっ……」


 あの、ルフの最後の授業から数日後だった。私の護衛を辞めると言ったのだ。もう既に、母には伝えてあるらしい。


「ヒューイが死んだとギルドから報告がありました」

「ひゅ……」


 死んだ。

 ルフの口から。

 なんだって?


「ちょっと待って。死んだ? ヒューイが……?」

「私はすぐに、ギルドに戻らねばなりません。護衛の任務を中途半端に中断してしまうことを、お許しください」

「いや、許すっていうか……。ちょっとルフ」

「エルル様」

「!」


 私は、ルフの魔力を感じ取れる。相当に焦っているようだった。

 そう言えば。ふたりはどんな関係だったのだろう。ニンゲンの男性であるヒューイと、エルフの彼女と。


「森を出られる際は、一度、冒険者ギルドへお越しくださいませ。きっと歓迎されますから」

「それは分かってるわ。約束。一度は訪れるから」

「約束、ですよ」


 既に荷物を纏め終え、旅装姿で挨拶に来たルフ。まだ早朝だ。このまま、誰にも見送られずに出るつもりだ。思えば彼女は、私以外と殆ど会話をしていないようだった。


「それでは。エルル様とご一緒できて幸せでした」

「……私もよ。ルフに沢山、教えてもらって。ありがとう」


 お互い、無理やり笑って。

 ルフは、振り返らずに、風のように駆けていった。






◇◇◇






 その足で。

 母の執務室へ向かった。


「お母様」


 聴かねばならない。いずれは、必ず。そう思っていたのだ。

 今だ、と。


「……ルフ。あの子は正しいわ」

「えっ」

「ごめんなさいね。あの子、直前まで言い出さなかったでしょう。責任感が強いのでしょうね」

「……はい」


 いつも通りの朝。いつも通り優しい表情の母。優しい声色。私と同じ緑柱石の長い髪。優しい視線。私と同じ緑柱石の瞳。

 けれど油断はできない。母の魔力だけは、読み取れない。きっと、私と同じなんだ。魔法においては、私より遥か先を行っている。地獄耳の魔法で母の私生活を覗くこともできない。


「女性の()()と言うなら。本来は。……大勢の……気が利いて、理解があって、なんでもしてくれて、全部褒めてくれて、肯定してくれて、貢いでくれる、若くて美しい男性に囲まれた、逆ハーレムのことなのよ」


 母から出たとは思えない言葉の羅列だった。母は男性嫌いだった筈だ。恐らく――世界で一番の。


「お母様……?」

「こちらへいらっしゃい。エルル。あなたの口から、言い出しなさい」


 母が私を名前で呼ぶ時は。


「……はい」


 ルフだ。彼女が最後に、母へ何か言ったのだ。

 全てを悟ったような表情。覚悟と受容の視線。

 私も覚悟を決める。11年間、言い出せなかったことを。


「私の、父親について。最後にそれを、お母様の口から聴きに来ました」

「…………そうね。私はもう既に、あなたを止められない。私は一生ここに、釘付けだから」


 私と母は、実の親子だ。それは間違いない。つまり、母と交尾をした男性が居て。妊娠して、私を出産したということだ。

 男性が嫌いで、こんな地獄まで作ってしまう母が。


「エルル。あなたの父親は、冒険者だったの」

「!」


 夏が、終わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ