第239話 楽しくなる魔界の魔法
翌週から、早速レインに誘われた。
「いや〜。丁度ええ魔法使いがおるやんかと。思ったんよ〜」
カナカナに勝利して、晴れて合格した私は。ジンの修行を手伝うことになる。
ルフは欠席だ。何か、私が寝ている間にカナカナと話していたのは知っている。それが関係しているのか。
道場にて。レインと並んでジンと相対する。
「……姉ちゃん」
「そうね。ジンが強くなる為なら協力は惜しまないわ。何をすれば良いの?」
魔導術の修行はまだまだ半ばらしい。けれど、彼は今剣を握っている。徒手での魔導術は修めたということだろうか。いずれはカナカナのように、あの肉厚の魔導剣を扱うことを許可されるのだ。
「今やっとるのは、魔界エルフの戦闘用攻撃魔法。見とってな」
レインが、ジンの方へ右手を翳した。魔力が集まる。これは、何らかの生成魔法の動きと構えだ。火か水か、氷か。
「鉄塊擬似生成魔術」
「えっ」
鉄塊が、レインの右手から出現した。
「加工――弾丸」
塊はみるみる削られていき、20個ほどの小さな弾丸となった。
「射撃!」
「!」
射撃魔術。目にも止まらぬ速さで、ジン目掛けて向かっていく。
「うおあっ!」
それを、なんとか弾いた。
「……とまあ、こんな感じやね」
「………………凄い」
生成魔法は、高度な魔法だ。まずは空気中の水分を水塊にするところから練習が始まる。
それを、鉄塊だなんて。
「…………消えたわね」
ジンが弾いた弾丸を追う。床や壁に当たった後、煙のように魔力の粒子となって消えた。
「生成ちゃうねんよ。これは擬似生成。魔力で『鉄』を擬似的に再現しとって。やから、うちのコントロールから離れたら消えるんよ〜」
凄い。
これも、今までの私には思いもよらなかった魔術だ。こんなこともできるのか。本当の鉄ではなく、術者のコントロール下に限り鉄を再現する魔術。
「擬似生成。それに、変形ではなかったわね。確か、加工?」
「別に変形でもええねんけどね〜。うちの故郷やと加工なんよ。やりやすい方でええと思うわ〜」
魔力で。
擬似的に再現。
「………………」
同じように手を翳す。鉄。鉄……。
「……すぐにできる気はしないわね。もう一度手本を見せて貰えるかしら」
「はいな」
魔力の流れを見るのだ。それを再現すれば同じことができる筈。魔法も魔術も、基本的な原理は同じなのだから。
「鉄塊擬似生成」
同時に。
鉄塊を出現させた。
「………………はぁ」
私の鉄塊を見て、レインが目を丸くした。
「ルフはんから聞いとったけども。ほんに天才やねえ。これ、村の子やと修得に大体4〜5年掛かるんやけど」
「簡単ではないわよ。けど、生成魔法に近い魔術だし、私はもう10年も魔法を使っているし」
「いうても、凄いわぁ。普通は、本物の鉄塊を毎日触ったり眺めたりして『鉄』の感覚を養うもんやねんよ」
「流石エル姉ちゃんだ」
褒めてくれるのは嬉しいけれど、本番はここからだ。
擬似的な再現だから、気を抜くと消えてしまう。『鉄』を保ちながら、形を変えなければならない。
「……変形」
いきなり弾丸は無理だ。
大きな針になった。
「では、撃つわよ」
「えっ。うん!」
射撃。
私の鉄針は、緩やかに飛んでいって。
ジンに簡単にはたき落とされた。
「……遅い」
「練習が必要ね。変形にも時間掛かってる。ジンの修行の手伝い、まだできそうにないわ」
というか。
魔界の魔法の方が楽しくなってしまった。




