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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
238/300

第238話 男でもやらない馬鹿な戦い方

 ドカン。


 魔導も剣も意味をなさない、ゼロ距離の爆発。私の考え付いた不可避の攻撃。


「…………ぐは……!」


 衣服は破れて。

 全身に衝撃を浴びたカナカナは、ふらりと後方に倒れた。どさり。大の字。


 私も、ただでは済まない。もう動けない。だけど、倒れるわけにはいかない。


「がは……。ふ。……参った」

「…………」


 勝った。

 いや。


 多分、違う。


「カナちゃん!」

「エルル!」


 同時に、レインがカナカナへ。ルフが私に駆け寄る。ルフに触れられてようやく、私は彼女に体重を預けて座り込む。


 カナカナも、レインに支えられて頭を上げる。


「……へへ。負けたぜ」


 笑っていた。

 悔しい。


 勝たされた。


「……師匠……」


 ジンが、遅れてやってくる。まさかA級の自分を毎日ボコボコにしている師匠が負けるなど、予想していなかったのだろう。

 ここ最近、私は彼に弱い所しか見せていなかったし。


「…………どうだ。ジン。お前が守りたいっつう女はな。か弱いお姫様なんかじゃねえぞ。魔法使いの天敵である魔導士(あたし)を正面からぶっ倒すド根性女だ。オルスじゃどうだったか知らんが、少なくとも今はお前の守りなんざ必要ねえほど強え」

「…………!」


 ジンがこちらを見る。

 私はどうにか無理矢理、余裕そうな表情を作る。


 私は、ジンがパーティに入ると心強いと言ったのだ。

 守られるだけ、なんて訳にはいかない。

 ジンが居なければ魔界に行けないなんて、そんなの私の目指すものではない。


 彼女には必ず、勝たなければならなかった。


「あー。参った。馬鹿な戦い方だ。男でもそんなことはしねえ」

「…………上等」


 私も無理矢理笑った。






◆◆◆






 ジンの修行は、レインとの自主練になった。

 カナカナは、魔力侵蝕によりお休みだ。


 私の隣で。


「全く見えなかった。あたしがだぞ。何だアレは」

「魔力そのものよ。それが攻撃手段になるなんて、私も考えたことは無かった。ジンとの自主練で思い付いたの。それから今日まで、使いこなす鍛錬とイメージトレーニングね。威力は足りなかったけれど」


 お互いに魔力侵蝕。お互いに、身体の表面に軽く火傷。

 一緒に爆発したようなものだ。


「…………魔力か。あんたそれ、極めろよ。魔界でも通用する筈だ」

「そう? ありがとう。あなたにそこまで評価されたなら、自信になるわ」

「……あんたが言う、その『最強のエルフ』に勝てなかったのは、気持ちで負けてたんじゃねえのか」

「………………分からないわ」


 エルドレッドは、別に六化六強(りっかろっきょう)ではない。強さというより、冒険者ギルドに知られていないからだ。私は、彼はそれくらい強いと思っている。

 彼が魔導剣を持ったジンに負けて。私がカナカナに勝ったのは。

 相性と運だろう。今やっても、どのマッチも同じ結果にはならない筈。


「カナカナ。あなたや私は、『男性の魔導士』にも勝てる?」

「…………痛いところ突くな。その辺の男共にゃ負けねえ。それはあたしもあんたも同じだろ」

「ええ」


 同じ強さ。同じ条件。同じ鍛錬。同じ技術。

 なら、男性の方が強い。


 それは魔導術の世界も同じなのか。


「……そろそろ、本格的に修行を始める」

「えっ? 今までは違ったの?」

「今までのレインが本気だと思ったのか?」

「!」


 魔導術。その修行は。魔法使いを相手に実戦形式で行う。

 つまり。その終着点は。


「エルル。あんたはエルフでもあるから、大変だよな。『魔界エルフ』の魔法、勉強になるんじゃねえか? 丁度良いから覚えていけよ」


 本気のレイン。

 確かに彼女はジンに対して本気で魔法を撃っていた訳では無い。今までは。


「それと、『男の魔導士』な。あと1〜2年で帰って来る筈だ。エルックリンに出発する前に、会っていけよ。あたしの息子――『六強の六』、ペルソナ・ヴァルキリーと」

「!」

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