第238話 男でもやらない馬鹿な戦い方
ドカン。
魔導も剣も意味をなさない、ゼロ距離の爆発。私の考え付いた不可避の攻撃。
「…………ぐは……!」
衣服は破れて。
全身に衝撃を浴びたカナカナは、ふらりと後方に倒れた。どさり。大の字。
私も、ただでは済まない。もう動けない。だけど、倒れるわけにはいかない。
「がは……。ふ。……参った」
「…………」
勝った。
いや。
多分、違う。
「カナちゃん!」
「エルル!」
同時に、レインがカナカナへ。ルフが私に駆け寄る。ルフに触れられてようやく、私は彼女に体重を預けて座り込む。
カナカナも、レインに支えられて頭を上げる。
「……へへ。負けたぜ」
笑っていた。
悔しい。
勝たされた。
「……師匠……」
ジンが、遅れてやってくる。まさかA級の自分を毎日ボコボコにしている師匠が負けるなど、予想していなかったのだろう。
ここ最近、私は彼に弱い所しか見せていなかったし。
「…………どうだ。ジン。お前が守りたいっつう女はな。か弱いお姫様なんかじゃねえぞ。魔法使いの天敵である魔導士を正面からぶっ倒すド根性女だ。オルスじゃどうだったか知らんが、少なくとも今はお前の守りなんざ必要ねえほど強え」
「…………!」
ジンがこちらを見る。
私はどうにか無理矢理、余裕そうな表情を作る。
私は、ジンがパーティに入ると心強いと言ったのだ。
守られるだけ、なんて訳にはいかない。
ジンが居なければ魔界に行けないなんて、そんなの私の目指すものではない。
彼女には必ず、勝たなければならなかった。
「あー。参った。馬鹿な戦い方だ。男でもそんなことはしねえ」
「…………上等」
私も無理矢理笑った。
◆◆◆
ジンの修行は、レインとの自主練になった。
カナカナは、魔力侵蝕によりお休みだ。
私の隣で。
「全く見えなかった。あたしがだぞ。何だアレは」
「魔力そのものよ。それが攻撃手段になるなんて、私も考えたことは無かった。ジンとの自主練で思い付いたの。それから今日まで、使いこなす鍛錬とイメージトレーニングね。威力は足りなかったけれど」
お互いに魔力侵蝕。お互いに、身体の表面に軽く火傷。
一緒に爆発したようなものだ。
「…………魔力か。あんたそれ、極めろよ。魔界でも通用する筈だ」
「そう? ありがとう。あなたにそこまで評価されたなら、自信になるわ」
「……あんたが言う、その『最強のエルフ』に勝てなかったのは、気持ちで負けてたんじゃねえのか」
「………………分からないわ」
エルドレッドは、別に六化六強ではない。強さというより、冒険者ギルドに知られていないからだ。私は、彼はそれくらい強いと思っている。
彼が魔導剣を持ったジンに負けて。私がカナカナに勝ったのは。
相性と運だろう。今やっても、どのマッチも同じ結果にはならない筈。
「カナカナ。あなたや私は、『男性の魔導士』にも勝てる?」
「…………痛いところ突くな。その辺の男共にゃ負けねえ。それはあたしもあんたも同じだろ」
「ええ」
同じ強さ。同じ条件。同じ鍛錬。同じ技術。
なら、男性の方が強い。
それは魔導術の世界も同じなのか。
「……そろそろ、本格的に修行を始める」
「えっ? 今までは違ったの?」
「今までのレインが本気だと思ったのか?」
「!」
魔導術。その修行は。魔法使いを相手に実戦形式で行う。
つまり。その終着点は。
「エルル。あんたはエルフでもあるから、大変だよな。『魔界エルフ』の魔法、勉強になるんじゃねえか? 丁度良いから覚えていけよ」
本気のレイン。
確かに彼女はジンに対して本気で魔法を撃っていた訳では無い。今までは。
「それと、『男の魔導士』な。あと1〜2年で帰って来る筈だ。エルックリンに出発する前に、会っていけよ。あたしの息子――『六強の六』、ペルソナ・ヴァルキリーと」
「!」




