第237話 再び対峙する強敵達
夏の終わり。
私はまた山の中腹にある広場で、カナカナと対峙している。
「復活早々あたしに再挑戦か。身体鈍ってねえのか?」
自信満々、余裕が見えるカナカナ。魔導剣は地面に突き刺している。抜く気は無いらしい。
以前は剣を持ってきてすらいなかった。これは、『もしかしたら使うかもしれない程度には警戒しているけれど、結局使わないだろうな』という彼女の考えだろう。
「………………」
集中。
この半年で、何かが確実に変わった。その実感がある。原因も結果も分からないけれど。
ルフもジンもレインも見に来ている。ルフは、心配そうに私を見ている。
「じゃ、始めるか。いつでも良いぞ」
カナカナが、黒銀の手袋で構えを見せる。
私も頷く。
ドン。
「!」
カナカナの首が後ろに飛んだ。
「は!?」
ジンが驚いて叫ぶ。
魔力の弾。初速はカナカナでも見切られない。それが分かって良かった。
「…………ちっ。なるほどな」
カナカナは持ち堪えた。鼻血を垂らしながら、姿勢を戻す。構えは顔を防げるようにやや上で。
ドン。
「うっ!」
脚。
弾かれたように彼女の左足が浮く。魔法的足払いだ。体勢が崩れたら畳み掛ける。
「…………へっ」
崩れない。体幹が凄い。
だけど。
「火の玉」
「おう来いよ」
既に上空に、144個の火の玉を設置し終えた。最高速で、降り注がせる。
「俄雨!」
「!」
隙間なく、直上からの爆撃。避けることはできない筈。
「すげ……」
ジンは驚いてばかりね。
煙が晴れる――
「!」
直後、私の目の前に現れた。剣を持っている。これでさっきの火の玉を防いだのだ。ようやく抜かせた。
「次はあたしの番だ!」
袈裟斬り。魔力を切り裂く剣。魔力強化での防御は期待できない。避けるしか無い。
試してみたいことがある。
ガツン。
「んあ!?」
フーナ直伝、土魔法。地面から柱を作り出してせり上がらせる。剣を弾いて起動を逸らすことに成功した。
魔力は寸前で供給を止めた。つまり、この土の柱は魔法で作ったのに魔力が通っていない。
「……ほう」
即座に理解した様子のカナカナが、にやりと笑う。
柱を6つ生成して彼女へぶつける。けれど、もう見切られた。剣術自体が達人だ。
ドン。
「ぐっ!」
魔力弾。腕を上げてガードされる。けれど、その腕には相当なダメージが入った筈。
続けて風の魔法。私ではなく、彼女を中心に結界を張る。
「おらぁ!」
瞬間斬り裂かれる。駄目だ。これは通じない。
「っ!」
隙を晒した。分厚い剣の腹で、視界が覆われた。
叩き付けられ、吹き飛ぶ。
「エル姉ちゃん!」
ジンの叫び。
「やぁっと一撃入れさせてもらったぜ」
カナカナの声。
全て聴こえている。
吹き飛びながら、後方へ加速。衝撃を軽減して、反転。手を付いて飛び上がる。
たらり。額から血。咄嗟にガードした右腕は感覚が無い。全身泥だらけ。
「沼生成」
「んお!」
カナカナの立つ場所は私の立っていた場所。水魔法と土魔法の混合魔法。粘度の高い沼が彼女の脚を止める。
ドン。
「ぐっ」
魔力弾。
ドン。ドン。ドン。
「はっ。慣れてきたぜ」
一斉射撃。カナカナも魔導剣で応戦。いくつかは防がれる。
これは速度こそ速いけれど、これでノックアウトには至らない。改良が必要か。
ドン。
足音。
「!」
カナカナが、魔力弾の弾幕を対処しながら沼を攻略していた。
バケモノか。この人。
再び、目と鼻の先。彼女の剣の間合い。
「また避け――」
笑っている。楽しいのだろう。戦いが。敵が。強敵が。
私は彼女にとって、剣を抜くほど強敵足り得た。
抱き着く。
「!?」
間合いの内側。ここに剣は振れない。
「魔力爆弾」
全身から、威力のある魔力を放出する。
「!」
私自身が、爆弾となって。




