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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
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第236話 強く弱い混血の為の理由

 引き籠もってしまった。


 ジンではない。

 私がだ。


「………………」


 膝を抱えて、色んなことを考える。窓の外をたまに見る。


 気付くと、陽が暮れている。


 エルフの代謝やエネルギー効率はニンゲンと異なる。ハーフとはいえ、別に数日何も口にしなくとも問題ない。


「魔導術の修得には段階があるそうです。全部で5段階の内、今まで2つ目で止まっていたそうですが。今日、3つ目をクリアしたそうです」


 ジンの修行は、あの日から急激に進んだらしい。順調過ぎるほどに、成長していっているのだとか。

 良いことだ。

 その筈だ。


「……エルル。どうしてしまったのですか。冒険者であるあなたが、部屋へ籠もりきりなど」


 どうして性欲があるのだろう。

 そう、彼は言った。


 どうして。

 私には無いのだろう。


「ルフ」

「……はい」


 呼ぶ。来てくれる。しゃがんで目線を合わせる。

 唇を重ねる。


「…………ねえルフ。キスをすると、『エロい気持ち』になるのよね」

「まあ、大体は。キスからボディタッチ、前戯に繋がるのは割と普通の範疇だと思います」

「………………今も?」

「……やれと言われれば、今すぐにでもエルルを脱がして押し倒しますが」

「……………………」


 ルフのことは分かってきた。キスをした後、顔が赤い時がある。あれが、『エロい』ということなのだろう。ルフは人生経験も豊富なため、ある程度自分でコントロールできるみたいだけれど。


「…………エルフって、いつ『エロに興味を持つの?」

「……基本的には、他の種族と変わりません。同じ人類ですからね。10代前半くらいからだと思います」


 じゃあ私は。

 何故。

 21歳を過ぎても。


 その気持ちが分からないのだろうか。


「……レドアン大陸の亜人病院で、ついでに検査してもらえば良かったわ。私、やっぱり何かおかしいのよ。レイプされたトラウマと、身体のことは別でしょう? 第二次性徴期も過ぎたのに。もう身体は立派に大人なのに。ルフのこともジンのことも好きなのに。……好き以上が無いのよ」


 視界が滲む。

 涙が出ている。いつ振りだろうか。


「だから、ジンと上手くいかないのね。なんだか心が、すれ違っていると思うの。あの顔。私、何て言えば良いか分からなかった。彼が何を求めているか。多分、間違ったことを言ってしまった。気を回せなかった」


 普段くっついて来るのに。最近ようやく1回だけキスさせて。妻になると言っているのに。その癖、男性器を見せると吐いて倒れる。

 意味不明だ。こんな女。


「…………少なくとも、ジンは気にしていません」

「なんでよ」


 ルフが。

 抱えた膝ごと抱き締めてくれた。


「彼は今、エルルの為に修行をしています。……今だけではありません。8年前から。ずっと。エルフィナ様からの報せとか。A級試験とか。そんなことではなく。エルルの為なんです」

「…………」

「魔導術を始めたのも、エルルを守れるようになる為です。彼の行動は全て、エルルの為にやっているのです」


 ルフはいつでも私に優しい。

 そして。

 自分ひとりで解決したジンに比べて、私はルフに頼らなければいけないほど弱い。


「エルルが強いから。そのエルルを守れるレベルに、彼はならなくてはいけなかった。普通のニンゲンの戦士では、魔界へは行けないのです」


 閉じ籠もって、何日経っただろうか。


 そろそろ、立ち上がらなければいけない。

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