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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
232/300

第232話 小さく連呼する期待

「ふぅ……」


 多分、無意識。いや、意識して、声を押し殺していた筈。声にならない息が、何故か聴こえた。


 私達は口を離して、彼女を見る。


 その息が聴かれてしまったことに気付いた彼女は、申し訳無さそうに口を結んだ。


「ルフ。ありがとう。何もかもあなたのお陰だわ」

「あー……。うん。ルフ姉ちゃんが一番の苦労人かもね」


 私とジンをキスさせるまでに。

 10年掛けたのだ。

 溜め息くらい、出る。


「…………ではエルル。今夜は私がエルルに甘えて良いですか」

「勿論よ。というか、毎日でも良いのに。自分に厳しすぎだわあなた」

「……これで、良いのです。私は。……それと。ではもうひとつ」

「?」


 ルフが、やってくる。私に、ではなくて。ジンに。


「ルフ姉ちゃ――!」

「口を閉じなさい。ジン」


 勢いよく。飛び掛かるように。

 彼の頭をがっちりとホールドして、唇を押し当てた。


「んんっ!」

「………………!」


 ずるり。力が抜けたのか、ジンはベランダの柵を背に座り込む。

 ルフは止まらない。止めない。キスを続ける。情熱的に。


「っは」


 ようやく、離した。

 ジンは、驚いて目を丸くしている。ルフは、糸を引く唇をぺろりと舐めて。


「私にもご褒美、貰いましたよ。ああようやく、あなたとキスできました」

「…………る、ルフ姉ちゃん……」

「何ですかその顔。声。可愛いですね。女の唇を知ったばかりの少年。私はさておきエルルです。不足は無いでしょう」


 この瞬間。


 私もジンも、この人に敵わないことが決まった。






◆◆◆






「さて、部屋へ戻りましょう。誰に見られているか分かりませんよ」


 ルフ主導で、まだこの会は続く。ベッドにジンを座らせて、私達は床に。


「えっと……」


 言われるがまま、座るジン。


「エルル。今日はここでやめておきますか? それとも、もう1段階だけ、進みますか?」

「……!」


 見る。

 ルフの視線の先。


 彼の、ズボン。

 股間の位置。


 不自然な()()()ができている。


「キスをしましたからね。それも2回も。ふたりと。……こうなるのは自明です」

「…………ちょっと、待って。これ……っ」


 何より恥ずかしいのは。ジンの筈だ。


「………………ヤバい恥ずい。ヤバい」


 ずっとヤバいと連呼している。両手で顔を覆って。


「………………。だん、せい……き」


 大きい。

 いや。ズボン越しだからそう見えるだけだろうか。

 とてつもない存在感を放っている。


「エルル。今日はまだ、エルルが選べます。今でなくとも良い。その場合、私が処理します。そして今後、数日に一度程度、この処理を行います。それで取り敢えず、当初の問題は解決するでしょう」

「…………当初の問題?」


 ジンの質問が、彼の口を覆う両手の隙間から発せられた。


「あなたが最近、修行に集中できていない問題です。心当たりはあるでしょう」

「……………………」


 ジンからの返事は。少し、間が空いて。


「……うん」


 肯定。


「でも。どうしようもなくて。悪いと思ってるんだけど」

「はい。だから、取り敢えず今日。勃起させてしまった私がなんとかします。…………良いですか、エルル」

「……!」


 私達とジンとの関係は、私から。それが、ルフの願いだった。


 そうして、キスがなされた。同時に、ジンの性欲は頂点に達した。


 どうにかしなければならない。だけど、私がここで辞退しても、ルフが居る。


 セックスではない。だから、私でなくても良い。それがルフの考え。


 ……私は。


 ルフに従う。


「…………頑張る」

「再三言いますが、無理だけはしないよう。まずは、見慣れましょう」

「…………ええ」


 ヤバい。恥ずい。

 ジンがまた、小さく連呼し始める。けれど、抵抗はしない。私達に委ねている。


 そして。


 私達に、期待している。

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