第23話 生命の根幹を否定した末路
女性の権利が無かったから、男性と対立したのだと思っていた。それは正しかったけれど、真実の全てではなかった。
『人』とは本来――
「……女性が、働くようになったと、先日お話しましたね」
「ええ」
「それは、女性が働きたかったから。または、働かねばならなくなったからです」
「そうね」
巨大樹の頂上で。ルフの授業が始まる。私は正常心で居るよう努める。もう、地獄耳の魔法は止めた。
ルフは、控えめに笑っていた。私が、森の皆の声を聞いて。答え合わせをして、『ああやっぱり合っていた』と、安堵するかのように。
「……男性が、これまでやっていた仕事とは、この世の仕事全てです」
「まあ、そうなるわね。男性しか仕事をしていなかったのなら」
「その中には当然、死体処理や汚物処理、下水道の清掃、ゴミ回収、死刑の執行、兵役といったものもあります」
「…………まあ、当然よね。需要はあるから」
「女性が、社会進出をして『やりたかったこと』の中に、それらの職業が選ばれることはありませんでした」
「!」
薄々、なんとなく察しては居た。
歪なんだ。この森は。
不満が出るに決まっている、と。
「実際に、そのような職業へと進む女性は非常に少なく、社会的に、人手不足でもあります」
「……そう」
ルフが何と言おうとしているか。
察してしまう。
「そんな中、過激に男性を嫌う女性達が集まって、フェミニストを名乗り、女性達だけの社会を作りました。……そこにはもう、汚物や死体、ゴミの処理をしてくれていた男性は、居ないのです。女性の代わりに敵兵と命懸けで戦ってくれていた男性は、もう居ないのです」
「……聞いたわ。愚痴と、押し付け合い」
「はい。女性だけの社会で、社会を継続させようとするなら。どうやったって、働く者=ジェンダー男性が必要です。そうするとどうなるか。『男性役の女性』と、『そうでない女性』との間で対立が起きます。これまでの、男女の対立と同じように」
「…………!」
ごくり。喉が鳴った。返事ができない。そんな、まさかと、信じたくない私が居て。
けれど冷静な私はもう、気付いていて。
「さて。纏めます。エルル様の質問にお答えしましょう。この巨大森は女性の楽園なのではないのか、と」
「…………ええ」
もう分かっている。最初から。
「男女共に暮らすことが基本である社会から、男性を排除して、女性だけにすると。今度は女性同士で対立し、争います。この楽園に夢を見たままの、働かない女性と。男性の役割を真に経験して、見識が広がったジェンダー男性の女性で。それらを引っ括めて、彼女達はフェミニストと名乗ります。しかしやっていることは、男女平等などではなく、男性への嫌悪を口にすることだけ」
もう、男性は居ないのに。ゴミや汚物が処理されず、男性が居ないことにすら不満を溢す始末。
「それを、自ら望んで、この森を作ったのです。ここはそんな女性達の。……男性と結ばれ、命を営むという生命の根幹を否定し逸脱した女性達の最後の掃き溜め。自ら望んで来たここですら、不満を垂らしてただ死ぬまで生き長らえるだけ。楽園? とんでもない」
汗が止まらなかった。
森の頂上で。まだ高い陽を浴びながら。
これがルフの、最後の授業だった。
「ここは女の地獄ですよ。エルル様」




