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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第10章:克服する心と身体
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第227話 なんだかずるい進捗報告

 春が来た。雪は解けて、風は暖かく。気温は少し低いけれど、これも中部ならでは。


 今日はウリスマで、冬明けの祭りが開催されていた。


 トンガリ屋根の街は色とりどりに装飾されていて、そこかしこから音楽が聴こえてくる。中部の伝統的管楽器だそうだ。風のような綺麗な音色。


「凄い。結構賑わっているわね」

「隣街や、近くの小さな村からも人が来るんだ。まあ、パロットまで出た方が人は多いけどね。アルニア全体でこんな雰囲気だ」


 今日ばかりは修行はお休み。私達は3人で街へ降りていた。


 ジンを真ん中に、右側にルフ。左側に私。誰が決めた訳でもないけど、いつもの立ち位置。元々、ルフとふたりで旅をしていた時も私が左側だった。そこにジンが入ってきたのだ。


「う……。エル姉ちゃん」

「なに?」

「……歩きづらいかも」


 ルフに。

 積極的にスキンシップ、ボディタッチをしろと言われている。夜に彼女とのキスを我慢できない私は、彼女の言いなりなのだ。だから、恥ずかしいけれど。いつもルフがやっているように、ジンの腕を抱くようにする。胸を、押し付ける。


「そう? でも慣れて貰わなきゃ。あなたはふたりの女性を娶るのだから」

「めっ。めと……」

「良いですよエルル。その調子です」

「ふふ」

「なんか変だよ最近の姉ちゃん達〜っ」


 心臓が跳ねている。ジンの手前、平気な振りをしているけれど。背中は汗がびっしょりだ。


「…………最近?」


 ぴたり。

 止まってしまった。一気に背中に寒気が走った。


「え? いやだって。なんかふたり、距離近くなったかなって」

「!」


 隠していた筈だった。隠せていた筈だ。

 私が恥ずかしいのだ。ルフは、人前でも全然いけると言っていたけれど。私にはとても。

 私が誰かとキスをしたりしているところを見られたくないし、ルフが私とキスをしているところを誰かに見られたくない。

 そして、知られたくない。

 ふたりだけの……。


「存外、ジンも鈍くはありませんね」

「えっ。やっぱりなんかあるの? ふたり」

「ふむ。どうしますか? エルル」

「わ、私……?」


 離れる。ルフもジンの腕から離れた。

 道のど真ん中。

 ふたりの視線は私。


「…………取り敢えず、ご飯食べましょう……?」


 今は。まだ。

 ジンにも、言いたくない。






◆◆◆







「……修行の調子はどうなの?」


 適当に入ったレストラン。私達が依頼で採ってきたのもあるかもしれない、山菜のサラダと川魚の料理だ。


「うん。姉ちゃん達のお陰でなんとか。面の攻撃にも対処できるようになってきたよ。魔力については別に見えるようにはなってないけど、相手の視線とか手の動きとタイミングで、なんとなく掴めてきたんだ」

「それは凄いわね」

「姉ちゃん達の方はどうなの?」

「『魔力弾』はもう少し調整が必要だわ。距離が離れると威力ががくんと落ちるのよ。そこをどうにかしないと実用的ではないわね」


 こうして、お互いの進捗を報告し合う。これも大事なコミュニケーションだと思う。自分のパートナーが今何をして、どのような状況にあるのか。何がレベルアップしたのか。把握することは大事だ。


「ルフも魔力操作、結構慣れてきたわよね」

「はい。エルルの教え方が良いので。時間は掛かっていますが、私もレベルアップしていますよ」

「よーし。俺ももっと頑張らないと!」

「そうね。お互い頑張りましょうね」

「疲れて癒やされたい時はいつでも言ってくださいね?」

「……それどっちに言ったの?」

「両方です」

「!」



 ルフが、いたずらっぽく笑って唇に指を当てた。


 ……なんだかずるい。

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