第227話 なんだかずるい進捗報告
春が来た。雪は解けて、風は暖かく。気温は少し低いけれど、これも中部ならでは。
今日はウリスマで、冬明けの祭りが開催されていた。
トンガリ屋根の街は色とりどりに装飾されていて、そこかしこから音楽が聴こえてくる。中部の伝統的管楽器だそうだ。風のような綺麗な音色。
「凄い。結構賑わっているわね」
「隣街や、近くの小さな村からも人が来るんだ。まあ、パロットまで出た方が人は多いけどね。アルニア全体でこんな雰囲気だ」
今日ばかりは修行はお休み。私達は3人で街へ降りていた。
ジンを真ん中に、右側にルフ。左側に私。誰が決めた訳でもないけど、いつもの立ち位置。元々、ルフとふたりで旅をしていた時も私が左側だった。そこにジンが入ってきたのだ。
「う……。エル姉ちゃん」
「なに?」
「……歩きづらいかも」
ルフに。
積極的にスキンシップ、ボディタッチをしろと言われている。夜に彼女とのキスを我慢できない私は、彼女の言いなりなのだ。だから、恥ずかしいけれど。いつもルフがやっているように、ジンの腕を抱くようにする。胸を、押し付ける。
「そう? でも慣れて貰わなきゃ。あなたはふたりの女性を娶るのだから」
「めっ。めと……」
「良いですよエルル。その調子です」
「ふふ」
「なんか変だよ最近の姉ちゃん達〜っ」
心臓が跳ねている。ジンの手前、平気な振りをしているけれど。背中は汗がびっしょりだ。
「…………最近?」
ぴたり。
止まってしまった。一気に背中に寒気が走った。
「え? いやだって。なんかふたり、距離近くなったかなって」
「!」
隠していた筈だった。隠せていた筈だ。
私が恥ずかしいのだ。ルフは、人前でも全然いけると言っていたけれど。私にはとても。
私が誰かとキスをしたりしているところを見られたくないし、ルフが私とキスをしているところを誰かに見られたくない。
そして、知られたくない。
ふたりだけの……。
「存外、ジンも鈍くはありませんね」
「えっ。やっぱりなんかあるの? ふたり」
「ふむ。どうしますか? エルル」
「わ、私……?」
離れる。ルフもジンの腕から離れた。
道のど真ん中。
ふたりの視線は私。
「…………取り敢えず、ご飯食べましょう……?」
今は。まだ。
ジンにも、言いたくない。
◆◆◆
「……修行の調子はどうなの?」
適当に入ったレストラン。私達が依頼で採ってきたのもあるかもしれない、山菜のサラダと川魚の料理だ。
「うん。姉ちゃん達のお陰でなんとか。面の攻撃にも対処できるようになってきたよ。魔力については別に見えるようにはなってないけど、相手の視線とか手の動きとタイミングで、なんとなく掴めてきたんだ」
「それは凄いわね」
「姉ちゃん達の方はどうなの?」
「『魔力弾』はもう少し調整が必要だわ。距離が離れると威力ががくんと落ちるのよ。そこをどうにかしないと実用的ではないわね」
こうして、お互いの進捗を報告し合う。これも大事なコミュニケーションだと思う。自分のパートナーが今何をして、どのような状況にあるのか。何がレベルアップしたのか。把握することは大事だ。
「ルフも魔力操作、結構慣れてきたわよね」
「はい。エルルの教え方が良いので。時間は掛かっていますが、私もレベルアップしていますよ」
「よーし。俺ももっと頑張らないと!」
「そうね。お互い頑張りましょうね」
「疲れて癒やされたい時はいつでも言ってくださいね?」
「……それどっちに言ったの?」
「両方です」
「!」
ルフが、いたずらっぽく笑って唇に指を当てた。
……なんだかずるい。




