第226話 気まずくギクシャクするふたり
年が暮れて。
冬が明けて。
「新聞だ。出てるぞ。あとギルドの会報」
私達がアルニアのウリスマにやってきて、3ヶ月が経った。まだ寒さは残っているけれど、そろそろ冬の終わり。
私は21歳になって。
ジンも誕生日を迎えて、18歳。
ルフはもう少しで33歳。
「……『エルックリン前線部隊、ドラゴンを撃退成功』。……撃退?」
「ああ。大氷壁からニンゲン界へ来るドラゴンには、2種類ある。気候の安定したニンゲン界へバカンスに来る群れのドラゴンと、群れから追われて居場所の無くなった『はぐれドラゴン』だ」
「…………」
カナカナから新聞を受け取る。見出しには大きく、ドラゴン撃退の文字が記されていた。
「群れに居るドラゴンを殺せば、報復があるのですね」
「正解だ。ルフ」
考えていると、ルフが呟いた。
「ドラゴン1匹2匹なら、犠牲を払えばなんとか殺せる戦力はニンゲン界にある。だが、『群れ』は無理だ。全面戦争になれば、魔族とやりあう前にニンゲンは滅ぶ。だから撃退なんだよ。討伐して良いのは『はぐれ』だけだ。報復が無いからな」
「…………撃退」
「だが実は、難易度は討伐より高えぞ。殺さず、だが気力を奪う。逃走の隙と余力を残して立ち回る。一瞬でも気を緩めれば即死するドラゴン戦でだ。……曲芸の域だな。だが、あいつはやり遂げた」
記事には、冒険者のことは書かれていなかった。伏せられているのだ。
冒険者ギルド本部から、会報が廻ってくる。それによると、今度のドラゴン撃退に貢献した単独の冒険者が居る。
噂のモナ・アプリーレだ。
彼女はこの撃退をもって、A級冒険者に昇格した。
「…………一歩先に行かれた、という訳ね」
「焦るなよ。強くなる秘訣は『強くなること』だ。焦っても変わらねえ」
若干17歳。ジンと同い年か、ひとつ下。しかも、ニンゲンで、女性。
とんでもない人が居る。
「『四刀流』だと? あたしが見てた時は二刀流だった。それもそんじょそこらの刀じゃねえ、『魔剣』だ。そんなモンをあと2本、ミーグ大陸で手に入れやがったのか」
「魔剣?」
「魔道具の一種だ。あんたらも魔道具は知ってるだろ。魔封具だよ」
魔剣。
「簡単に言や、振ると魔法が出る剣だ。炎とか冷気とか。あいつはそれを使う。『魔剣四刀流』ってところか」
「…………それって、剣を持った魔法使いと変わらないわね」
「そういうことだ。だからニンゲンでも亜人顔負けの戦闘力って訳だな。だから、あたしの魔導術とは相性が悪かったんだ。体捌きと身体作り、多少の剣術だけ教えて後はクリアに任せた。あいつも似たような戦闘方法だからな」
「…………」
そんなものがあるのか。どれほど貴重なのだろう。そして、今のニンゲン界の主要国で製造と所持を認められる訳が無い品だ。ミーグ大陸は色々と事情が特殊と聞く。
「俺も負けてらんないな」
「俺達ね。ジン?」
新聞をジンに渡す。
「!」
その時に、目が合って。
お互い気まずくなって、逸らした。
この3ヶ月。
私とジンは、特に進展していない。寧ろ、あの時のことが過って、ギクシャクしてしまっている。
ルフとは、実はあまり変わらずに接することができているのに。
「というかそもそも、ソロだとジンは既にA級なので、そのモナという冒険者より一歩先に居たのでは」
「あー……。や、俺のA級ってなんか、結果を出した訳じゃないんだよね。試験はドラゴン討伐じゃなかったし」
「そうなのですか?」
ルフとジンの疑問は、カナカナへ向いた。
「……調子乗らせたくねえから言わなかったが、あたしはジンがモナに負けてるとは思わねえ。魔導術自体はまだまだだが、あたしの魔導剣ありなら、種類を選びはするがドラゴンの討伐は可能だと思ってる」
「!」
カナカナの、ジンの評価。そう言えば初めてかもしれない。
「……なるほど。あのエルドレッドに勝ったのは、魔導剣の存在が大きかったのですね」
「そうなのね。それで今は、魔導剣に頼らない実力を付ける修行という訳」
「分かってるじゃねえか。アホジンにはもう貸さねえ。自分でなんとかしろクソガキ」
「…………はーい」
ということは。
私が『本気』のカナカナを超えるには。




